映画『MINAMATA ミナマタ』はジョニー・デップの入魂の一作!
あらすじ
1971年、ニューヨーク。かつてアメリカを代表する写真家と称えられたユージン・スミスは、現在は酒に溺れる日々を送っていた。そんなある日、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市のチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しんでいる人々を撮影してほしいと頼まれる。そこで彼が見たのは、水銀に冒され歩くことも話すこともできない子どもたちの姿や、激化する抗議運動、そしてそれを力で押さえ込もうとする工場側という信じられない光景だった。引用元:映画com.
心揺さぶられるジョニー・デップの演技
あのジョニー・デップが「水俣病」を題材にした映画に出演すると聞いて、驚きました。
製作も兼任してるので、かなり意欲的な作品であることが伺えます。
でも何故なんだろう?
日本で起きた公害事件に焦点を当てるなんて…。
そんな戸惑いと疑問を持っていたせいか、物語が始まってもしばらくスター、ジョニー・デップとして鑑賞している自分がいました。
映画はすぐにユージン演じるジョニーが、昭和の日本を訪れる風景を映します。
家に招き入れられたジョニーが、靴を脱ぐ、畳に座る、ちゃぶ台で和食を頂く、布団で眠る、そんな日本の素朴な暮らしに戸惑っている様子が見られます。
流れる気まずい空気。
それはさながら、日本に来日したジョニーの密着ドキュメンタリーを観ているようでした。
変化したのは、水俣病患者の少年や、被害者家族との交流が始まった辺りです。
ジョニーは被害者と共に立ち上がる伝説的カメラマンのユージン・スミスへと化し、完全に物語に溶け込んでいきました。
真摯に挑むその姿は、心を揺さぶられます。
写真を撮ることの重み
戦争カメラマンとして活動したユージン・スミス。
劇中、印象深い言葉を残しています。
「写真は撮る者の魂の一部も奪い去る。つまり写真家は無傷ではいられない。撮るからには本気で撮ってほしい。」
これまでユージンの見てきた世界の惨状と、そこで葛藤し続けた日々が伝わってくるようでした。
それだけに彼の撮った写真は、静かな怒りと哀しみを訴えかけています。
映画のラストシーンにもなった写真「入浴する智子と母」は、ひと際、話題となりました。
水俣病で寝たきりの子供を母親が入浴させている姿を収めた1枚です。
母子の無償の愛と、嘆きを表現していました。
この写真を始めとする被写体となった本人や家族たちが、どんな想いで撮影を引き受けたのか、心中を察すると胸が締め付けられます。
真実をありのままに伝える、唯一の方法だったのかも知れません。
ユージンはそんな彼らと一体化し、1枚1枚魂を込めてシャッターを押し続けたように見えます。
多くの日本人に観てほしい作品
1974年、外国から来たカメラマンによって世界に知らしめることになった「水俣病」。
2013年の国会では、当時の首相が「水俣病は終わった」と発言しています。
私も小学校の授業で日本四大公害病として学んだことを記憶していますが、その教育を風化させていたことに気付きました。
だけど2021年、映画『MINAMATA』が公開され、再び「水俣病」が注目されました。
今も病と闘い、救済を求める人たちがいるー。
人生を狂わされ、幕を閉じていった人たちの無念さを忘れてはいけないー。
口惜しくも2人の外国人によって、日本の闇が暴かれました。
本作を観た日本人は、福島第一原発事故を思い起こさせる人も少なくないかも知れません。
エンディングは「水俣病」だけではなく、世界で起きている環境被害の写真の数々を映し出します。
ジョニー・デップの深い関心と深い情熱から作られた映画は、環境被害は身近で、いつでも誰でも当事者になり得ることを改めて突き付けています。
ファン歴20年以上の私が選ぶブラッド・ピットが魅力的な映画10選(後半)
前半に引き続き、ブラッド・ピットファン歴20年以上の私が、ブラッド・ピットが魅力的なおすすめ映画10選(後半)をご紹介したいと思います。
前半の5選の記事はこちら。↓
セブン
あらすじ
デビット・フィンチャー監督のサスペンス・スリラーです。
キリスト教における7つの大罪の言葉が残された残忍な殺人現場。担当となったベテラン刑事サマセット(モーガン・フリーマン)と若手刑事ミルズ(ブラッド・ピット)が犯人捜しに執念を燃やします。
やっと容疑者が割り出せたとき、彼は途方もない計画を実行した後でした…。(1995年公開)
熱烈ファン目線の感想
初めて刑事役に挑んだブラピ。血気盛んで危なっかしい役柄ですが、拳銃片手に走り回る姿はフレッシュさにあふれています。
犯人を追うシーンではスタントなしに挑み、実際左手に怪我を負いながら撮影を続けたという作品への気迫が伝わってきます。
注目ポイントは、妻役のグウィネス・パルトロウとのシーンです。
本作をきっかけに交際するようになった2人。ブラピの片思いから始まりましたが、撮影の間は緊張して自分が愚かに思えたと後の取材で語っています。
恋したブラピの素顔を見ることができるので、照れくさそうな表情が見逃せません。
そして映画史に語り継がれることとなったラストシーン。完全なる犯罪を前に葛藤するブラピの姿に誰もが打ちのめされるでしょう。
ブラピ映画の中で、最も完成された傑作の1本です。
パルトロウとは婚約解消してしまいましたが、歴代彼女の中で一番お似合いだったなと思っています。
アド・アストラ
あらすじ
50代になったブラッド・ピットが初めて宇宙を舞台にしたSFドラマです。
地球外生命体の探索中に宇宙で消息を絶った父親。その16年後、父親の企てた計画が地球に危害を及ぼすと米軍本部から呼び出された主人公ロイ(ブラッド・ピット)は、父親を探すために宇宙に旅立ちます。
月→火星→海王星と太陽系を巡る壮大な旅で、自分の生き方を見つめ、自分の抱えていた問題の真実が見え始めてきました…。(2019年公開)
熱烈ファン目線の感想
宇宙で浮遊するブラピをカメラが追い続けていくので、まるでブラピと2人だけで宇宙旅行を体験しているような感覚になります。
これほどまでにブラピを独り占めできる映画はないかも知れません。
しかし主人公は心に傷を抱えているため、彼の彷徨う宇宙空間は闇と静けさに包まれています。そこに神秘的な美しさを放つ地球や、不気味なまでの巨大な木星、赤く輝き続ける火星など幻想的な宇宙が映し出され、観ている方もブラピと共に心が呼び覚まされていくでしょう。
年を重ねたブラピの“静の演技”が見ものです。
軍服や宇宙服を着た姿が新鮮でした!
ジョー・ブラックをよろしく
あらすじ
アンソニー・ホプキンスと共演したファンタスティックなラブストーリーです。
会社社長のビル(アンソニー・ホプキンス)の前に見知らぬ青年(ブラッド・ピット)が突然現われ、死期が近いことを知らせにきました。青年は人間の体を借りた死神でした。
寿命を知ったビルは、少しずつ死に支度を始めます。一方の死神は人間社会に興味を持ち、人間のふりをしながらビルと過ごしますが、やがてビルの娘( クレア・フォーラニ)に心惹かれていきます…。(1998年公開)
熱烈ファン目線の感想
タキシードを着たブラピのフォーマルな姿が神々しいですが、本作はどちらかと言うとカッコイイよりキュートなブラピが満載です。
人間たちが食事をしたり、会議をしたり、挨拶でキスをし合ったりするのを不思議そうに眺める死神役のブラピ。ピーナッツバターの美味しさに目を丸くしたり、恋する女性の視線に恥じらったりと、まるで少年のような表情を見せてくれます。
序盤では交通事故に遭う衝撃シーンに悲鳴を上げそうになりますが、そこから繰り広げられる死神と人間のロマンチックな恋物語は、贅沢なほどスイートな気分にさせてくれます。
当時、失恋後のブラピがクレア・フォーラニと恋に落ちるのではないかと冷や冷やしながら観ていました。
ワールド・ウォーZ
あらすじ
突如発生した謎のウイルスが人間をゾンビ化させ、世界は壊滅状態に陥っていました。妻と子を連れて混乱する街を彷徨う主人公ジェリー(ブラッド・ピット)。彼はかつて国連の捜査官として伝染病の調査を務めたことがあり、その経験から再び国連に呼び出され、ワクチン開発のための調査隊に同行することを命じられました。
ウイルスの謎を解明するため各国を巡ることになったジェリー。しかし次々と過酷な試練が待ち受けていました…。(2012年公開)
熱烈ファン目線の感想
パニック・ホラーというジャンルや、元国連の職員、さらには家族想いのヒーローといったこれまでと異なるテイストでの出演に困惑したファンも多いことでしょう。
それが功をなしたのか(?)、ブラピ映画の中で最もエンタメ性が高く最もヒットした作品となりました。
パンデミックの世界が舞台ですが、何故か無防備でアクションはさほど見受けられません。一般庶民と共に走り回るブラピですが、大衆に交じると存在が際立ち、スター映画らしい雰囲気が出ています。
面白いのは、ワクチン開発のために研究所で展開されるドタバタ劇です。あまりに予想外でコミカルに思えますが、これまで演じてきたブラピの役柄を思えば納得かも知れません!?
フューリー
あらすじ
戦車1台で300人のドイツ軍と戦う戦争アクションドラマです。
第二次世界大戦下のドイツ。戦闘に立つ「フューリー」と名付けられた戦車内には4人の米兵がいました。そこに副操縦士として新兵のノーマン(ローガン・ラーマン)が加わりますが、リーダー格のウォーダディ―(ブラッド・ピット)を始めとする猛者たちは、彼の経験不足や戦争の現実を見ようとしない新兵に厳しく当たります。
ようやく部隊同士の絆が深まり始めたとき、ドイツ軍の容赦ない攻撃にさらされました…。(2014年製作)
熱烈ファン目線の感想
数々の戦場を切り抜けてきたとされるベテラン軍人役を演じているブラピですが、性格は荒々しく、新兵を鍛えようとする様子は鬼軍曹にも見えなくもありません。
しかし誰より戦争の厳しさ、惨さを知る彼だからこそ、新兵を一人前に成長させようと熱くなっていることが分かります。戦場でも道徳観を失わず、悲劇を憂う表情に切なさが込み上がります。
新兵と親子にも似た関係を築く貫禄や、大勢の敵にも動じない勇敢さを渋みのある演技で魅せてくれます。
ブラピが本気で挑んだ反戦映画は、世界情勢が不安定な今だからこそ観たい1本です。
本物の戦車を使っているので、戦闘場面が息をのむほど迫力に満ちています。
ブラピの映画を振り返って
とにかくブラピは、クセがある役柄を演じているものが多いです。
それも連続殺人者や詐欺師、ジャンキーやチンピラ、冷徹な父親役などダークサイドな役柄が多かったりします。
でもそれは、デビュー当時「最もセクシーな男」としてもてはやされたブラピが正統派で売り出されることを嫌い、強烈な役を演じることで人々に個性的な印象を残そうとした結果なのだそうです。
正統派のブラピでファンになった(私のような)人からすると、困惑する作品も少なくありません。
もしかしたら「ダークサイドなブラピ映画10選」なんかも書けちゃうかもしれません(笑)。
だけど今回ご紹介した映画のブラピは、とびっきりの魅力を放っている作品ばかりなので、ぜひ参考になさってみてください♪
ファン歴20年以上の私が選ぶブラッド・ピットが魅力的な映画10選(前半)
ブラッド・ピットが好き。
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』で一目惚れした私は、それからずっとブラピを追い掛けて映画を観てきたように思います。
大ヒットするような映画に出ているわけではないけれど、ハリウッドのトップスターとして不動の地位に立ち、50歳過ぎてもなお世界中の女性ファンを魅了し続けているブラピ。
今回はブラッド・ピットファン歴20年以上の私が、ブラッド・ピットが魅力的なおすすめ映画をご紹介したいと思います。
記事は前半と後半に分けて投稿します。
インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア
あらすじ
18世紀末にヴァンパイアとなったルイ(ブラッド・ピット)は、人間的な心を失えず、人を殺めて生きることに苦悩する良心的なヴァンパイアでした。
一方、仲間のレスタト(トム・クルーズ)は、そんなルイを諫め愚弄します。対立する2人の間に幼き少女がヴァンパイアとして加わったとき、残酷で悲しい運命が待ち受けていました…。(1994年公開)
熱烈ファン目線の感想
トム・クルーズとの共演で大きく話題になったヴァンパイア映画です。
今観ると、健康的なブラピが青白い顔をしたヴァンパイアを演じるのに違和感があります。白浮きしたメイクや黒い長髪スタイルは、どうも仮装感を否めなくもありません(笑)。
それでも憂う表情で繊細さを表現し、気品のある優しいヴァンパイアを演じ上げて愛すべきキャラクターを誕生させました。
今では決して見ることのできない初々しさにうっとりします。
トム・クルーズとのBLを思わせる空気感にも目が離せませんでした!
過去記事。本作の映画愛を語っています。 ↓
ファイト・クラブ
あらすじ
デヴィッド・フィンチャー監督のサイコスリラーです。
退屈な日々に刺激を求めていた主人公(エドワード・ノートン)は、謎の男タイラー(ブラッド・ピット)と出会います。
自信家で非常識だけど、ルックスが良くマッチョなタイラーに羨望を抱いた主人公は、彼と共に地下組織「ファイト・クラブ」を立ち上げます。組織に集められた男たちは殴り合うことで爽快感を得ますが、より強力なエキサイティングを求めてテロ集団へと変貌していきました…。(1999年公開)
熱烈ファン目線の感想
暴力性のあるサイコな男を演じたブラピ。
役作りのためにボクシングやテコンドーのトレーニングを積み、見事な肉体美を披露しました。
ストーリーは過激すぎて社会問題にもなりましたが、幻惑的で癖になるエレクトロニック・ミュージックや、奇抜で斬新な演出が独特な世界観を作り上げています。
そこに加わるブラピのクールなカリスマ性は、解き明かされる真実に妙な説得感を持たせてくれます。
どんでん返し要素も楽しめる、1粒で2度おいしいブラピ映画です。
本作で観るブラピの特徴的な高笑いや、ダンスもユーモラスで必見でした!
過去記事。大どんでん返し映画10選でもご紹介しています。 ↓
12モンキーズ
あらすじ
ブルース・ウィリス主演のSFサスペンスです。
主人公ジェームズ(ブルース・ウィルス)は、全世界にウイルスをばら撒いた犯人を探すため過去にタイムスリップしますが、過去では精神異常者と間違えられて収容所に送還されてしまいます。そこで出会った患者ジェフリー(ブラッド・ピット)が謎めいた言動で不穏な未来を暗示させていました。(1996年公開)
熱烈ファン目線の感想
ハイテンションで叫び、焦点が合わない目で奇妙奇天烈な役を演じたブラピ。その怪演ぶりが本作の一番の見どころと言っても過言ではないかも知れません。
実は若い頃のブラピは正統派俳優でいることを嫌い、敢えて汚れ役を演じてイメージを壊そうとしていました。
本作の役柄も嬉々として演じているのが伝わります。
お尻丸出しで逃げ惑うシーンや、くたびれたパジャマ姿、不揃いの髪などおかしな可愛らしさに釘付けになります。
本作でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、演技派俳優としても認められた1作です。
リバー・ランズ・スルー・イット
あらすじ
ロバート・レッドフォードが監督したヒューマン・ドラマです。
厳格な家庭のもとで育った二人の兄弟。主人公の兄は真面目な優等生でしたが、弟(ブラッド・ピット)は陽気で自由奔放のため、兄を何かと心配させていました。
父と兄弟は子供の頃からフライフィッシングに出掛けていましたが、それは大人になってからも変わらず、互いに人生を語らい学びを得ていました。しかし弟がポーカー賄賂に乗り込むようになり、思いもよらぬ出来事が起きてしまいました。(1993年公開)
熱烈ファン目線の感想
『ロバート・レッドフォードの再来』と言われ、その甘いルックスで世界の人々を虜にさせた罪深い1作です。
モンタナの大自然の中で紡がれる家族の語らい、川のせせらぎや陽光に照らされた水面、そしてブラピのさわやかな笑顔に目が眩みそうになるほど輝いて溜息が出ます。
自由奔放な役柄もやんちゃで可愛らしく、ストーリー終盤で大きな魚を釣り上げたときに見せる姿は、ファンならずとも胸キュンしてしまうでしょう。
ブラピ映画の中では珍しく感動的なストーリーで、いつまでも黄昏れていたくなる傑作です。
ブラピ映画で良いものが観たいなら、間違いなくこの作品がおススメですよ。
ベンジャミン・バトン 数奇な人生
あらすじ
ケイト・ブランシェットと共演したヒューマン・ドラマです。
生まれたときに80歳の老人のような姿をしたベンジャミン・バトン(ブラッド・ピット)は、父親に捨てられて老人ホームで育てられました。しかし年を重ねるごとに若返るという奇妙な体質を持っており、それ故に数奇な運命を送ることになります。そんなベンジャミンを愛してしまったデイジー(ケイト・ブランシェット)もまた、普通でない生き方に苦悶することになりますが…。(2009年公開)
熱烈ファン目線の感想
ブラピの80代~20代の姿をこの映画1本で堪能することが出来ます。
当時44歳だったブラピ。80代~60代までは本人ではなく特殊メイクと最新CG技術を用いた姿ですが、50代~20代までは本人が演じています。
映画は165分という長尺で、2時間経った頃からようやくブラピの眩いばかりのイケメンな姿が映されます。
長年のファンからしたら、再び20代のブラピに会えるなんて夢の贈り物をもらったような喜びを感じるでしょう。(私はスクリーンで観ることができたので、当時の感動はひとしおでした。)
特異体質を持ってしまったベンジャミンの人生を情感たっぷりに描いていくので、ストーリーへの投入感も絶品です。
後半の5選はこちら。↓
映画ファンに愛され続けているイランの名作『友だちのうちはどこ?』
イラン北部にあるコケール村の小学校。モハマッドは宿題をノートではなく紙に書いてきたため先生からきつく叱られ、「今度同じことをしたら退学だ」と告げられる。しかし隣の席に座る親友アハマッドが、間違ってモハマッドのノートを自宅に持ち帰ってしまう。ノートがないとモハマッドが退学になると焦ったアハマッドは、ノートを返すため、遠い隣村に住む彼の家を探し回るが、なかなか見つけることができず…。(1987年製作/83分/イラン)
引用元:映画com.
ノートに込められた想い
友達のノートを返そうと村を奔走する少年の物語は、ごくシンプルなのに胸に迫るものがありました。
1冊のノート。
それが彼らの間でどれほど大切で重要なものなのか、明日でなく今日返すことがどれほど意味があることなのか、大人はだれも理解しようとしてくれません。
「宿題をしたらパンを買ってきて。」の一点張りの母親も、「洗濯物を投げて。」と指示するどこかの住人も、「タバコを買ってきなさい。」と無駄な用事を言い渡す祖父も、少年が抱えている非常事態に無関心です。
極めつけは、「そのノートの紙1枚くれないか?」と寄ってきた通行人。
拒否する少年から奪い取って紙を破る様子は、何とも言い難い不条理さに溢れていました。
少年の悲痛な訴えは、大人たちに届くことがありません。
そんな中でも必死に友達を想い続ける少年の健気さが、観る者の心を締め付けていきます。
ひしひし伝わる痛烈なメッセージ
1987年にイランで製作された本作。
当時(今も?)、自国イランでは社会的メッセージのある映画は上映禁止とされていたため、監督のアッバス・キアロスタミは児童映画を撮りました。
童話的なストーリーは、親子で鑑賞できる感動作として目に映るかも知れません。
だけどこのミニマムな世界で繰り広げられたドラマには、子供の存在意義や教育、大人の役割について痛烈にメッセージを投げかけられています。
宿題をやらなかった理由を尋ねられた児童は「畑仕事を手伝っていたから。」と答えます。
教師は「次からは宿題を先にしなさい。」と注意をして終わらせますが、児童が返事をすることがありませんでした。宿題を先にすることが難しいことを静かにほのめかしています。
主人公の少年が道中出会う子供たちは、家の仕事で忙しそうにしています。
学校から帰って友達と遊ぶことがあれば、ノートを返すためにあれほど友達の家を探し回ることもなかったかも知れません。
お互いの家も知らず、学校でつかの間の時間を過ごし家路を急ぐ子供たち。
大人の絶対的な言い分を押し付けられ、彼らは理不尽を受け入れて社会を見つめています。
イギリスでは「14歳までに見ておきたい50の映画」に選んでいます。
国際的な評価を得ているイラン映画
イラン映画は実はとても分かりやすいジャンルだと思います。
登場する人物は最小限に留められ、ごくありふれた日常にささやかな問題を溶け込ませて単調にストーリーを展開させていきます。
台詞もわりと少ないため、映像の細部までじっくり鑑賞することができたりします。
役者は素人を使うことが多く、ドキュメンタリーを観ているような感覚にもなってきます。
派手な演出やドラマチックさはないけれど、叙事的な懐かしさや哀愁が漂い、独特な味わい深さを残します。
そんなイラン映画は、近年、国際的な評価を得るようになりました。
ひと昔前の日本ではミニシアターでしか観ることができませんでしたが、アカデミー賞やカンヌ映画祭などの映画賞を受賞した作品はシネコンでも上映されるようになり、ますます注目されています。
本作も含め、唐突に迎えるラストもイラン映画の特徴かも知れません。
実は問題は解決せず明日も続くことを示唆しています。
大切なのは、厳しい社会でひたむきに生きる人々に寄り添うことであり、そこから何を学び変えていくかを観た者に委ねているように思えます。
イラン映画には、もしかしたら人々への一縷の希望が込められているのかも知れません。
同じくアッバス・キアロスタミ監督作『桜桃の味』もおすすめの1本です!
思わぬどんでん返しが面白いデンマークの映画『ギルティ』
過去のある事件をきっかけに警察官として一線を退いたアスガーは、いまは緊急通報指令室のオペレーターとして、交通事故の搬送を遠隔手配するなど、電話越しに小さな事件に応対する日々を送っている。そんなある日、アスガーは、今まさに誘拐されているという女性からの通報を受ける。車の発進音や女性の声、そして犯人の息づかいなど、電話から聞こえるかすかな音だけを頼りに、アスガーは事件に対処しなければならず……。(2018年製作/88分/G/デンマーク)
引用元:映画com.
サンダンス映画祭で発掘された異色サスペンス!
2022年になってまだ1か月を過ぎたばかりですが、この映画は間違いなく今年のマイベスト映画になりそうです。
サンダンス映画祭で観客賞を受賞しているのも納得です。
このサンダンス映画祭は、世間であまり注目されていないようなインディーズ作品をお披露目する映画祭なので、新進気鋭の監督や俳優たちの発掘の場なっていたりします。
過去には『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、『レザボア・ドッグス』、『ソウ』、『セッション』などがサンダンスで上映されたことで脚光を浴び、世界に送り出されていきました(当時無名だったコーエン兄弟やクエンティン・タランティーノの成功のきっかけを作ったのもこの映画祭です)。
上映される作品は独創的な作品が多く、低予算で娯楽性に欠けます。
良くも悪くも「ちょっと変わった映画」だったりするので、他にはないゾクゾクとした興奮やマニアックな世界観に酔い痴れることができます。
まさに本作も、サンダンス映画祭だからこそ観られるような作品でした。
サンダンス映画祭の観客賞にノミネートされた作品のレビューです。
おススメな映画です。↓
ワンシチュエーションの面白さ
緊急通報司令室のひと部屋(正確にはふた部屋)だけの空間で、ストーリーが進行していきます。
こう書くと、視覚的な動きがなく退屈なものをイメージするかも知れません。
だけど映画冒頭からコール音が鳴り響き、ただならぬ緊迫感が漂い一気に鑑賞者を引き込んでいきます。
通報者と、それに応対するオペレーター、アスガー。
会話劇だけで電話の向こうの光景をありありと浮かびあがらせ、次なる展開に高揚感が高まっていきます。
「何が起きているのか?」
声と、音だけで事件を解決しようとする構成が、妙なリアリティとスリルを生み出しています。
ワンシチュエーションの中で描かれるアスガーの苛立ちや焦燥感、安堵や嘆きといったあらゆる感情が交錯するので、一瞬たりとも目が離せません。
どんでん返し映画としてもおススメ!
「アメリカの批評家サイト」で満足度100%の評価を得たのは、誰もが予測不能で衝撃を受けたからでしょう。
長い間合いで見せていくヨーロッパ映画特有の演出や、思いもよらぬ仕掛けは絶品です。
見所となっていくのは、アスガーの燃えたぎる正義感かも知れません。
現場に向かえない限界に苛立ちが達したとき、アスガーは鑑賞者を置き去りにするほど暴走していきます(笑)。
とにかく独りよがりで情報を仲間と共有しません。
オペレーターとしての仕事の領域を超え、遠隔で人を動かそうとする無謀さに思わず唖然としてしまいますが、それこそ驚きの展開を暗示させていたことを知ります。
どんでん返し映画として観るのも楽しいですが、実は感動も挟まれています。
エンディングで想いが集結されたとき、人の持つ言葉の力に胸が熱くなりました。
過去記事の「どんでん返し映画10選」にランクインしてもいいかも知れません。↓
イーサン・ホーク出演の西部劇『スリー・ジャスティス 孤高のアウトロー』
あらすじ
家庭内暴力を振るう父を射殺した15歳の少年リオと姉サラは、叔父グラントから追われる身となってしまう。アメリカ南西部をさすらう彼らは、西部きっての無法者ビリー・ザ・キッドと遭遇。そこへビリーを追う保安官パット・ギャレットが急襲し、激しい銃撃戦の末にビリーは投降、リオとサラはパットに保護される。しかし護送先のサンタフェの町で、リオたちを執拗に追ってきたグラントにサラが連れ去られてしまった。
引用元:映画com.
フィクションに史実を絡めた西部劇
舞台は19世紀のアメリカ西部開拓時代です。
この時代、必ずと言っていいほど極悪非道な男たちが登場し、略奪や暴行をエグいまでに描いていくものが多いので、西部劇は私の中で苦手なジャンルです。
正直、イーサン・ホークが出演しなければ観なかったであろう1本でした。
だけど観ていくうちに予想以上に引き込まれました。
面白いのは、15歳の少年リオの逃亡劇に実在したカリスマギャング、ビリー・ザ・キッドと、保安官パット・ギャレットという伝説的人物を絡めたところです。
主軸になっているのが少年の成長物語なので、西部劇ファンはビリーとパットを脇に置いたところに物足りなさを感じるかも知れません。
だけど少年の純粋な視点で見るからこそ、2人の生き様が物悲しくも魅力的に映り込んでいきました。
この映画をきっかけに、ビリーとパットについて知りたくなりました。
英雄視されなかったビリー・ザ・キッド
ビリー・ザ・キッド、映画を観るまでよく知りませんでした。
「弱きを助け強きをくじく」
そんな精神が民衆たちの支持を得たらしく、今も世界では伝説的アウトローとして人気があるようです。
リオがビリーに憧れたのは、必然的なように思いました。
リオは父親を銃殺してしまったことへの罪や恐怖に脅えているのが分かります。
そこで出会った悪名高きビリー。
破天荒で勇敢なアウトローは、思いのほか優しく人間味にあふれていました。
多くの罪を背負いながら堂々と生きるビリーに、リオが希望や救いを見い出すのに妙な納得感がありました。
リオにとってビリーこそ理解者のように見えたのでしょう。
だけどこの映画では、決してビリーを英雄視しませんでした。
脱獄したビリーは、リオに「自分の未来は無意味だ」と嘆きます。
初めて人を殺したときのことが忘れられず、ずっと脅えていると…。
ビリーは21歳で8人を殺した早撃ちガンマンと言われています。
パット・ギャレットの熱いメッセージ
※ネタばれ含みます
ビリーを背後から射殺した男として伝承されてきたパットですが、リオのヒロイズムが崩壊したとき、光が当たります。
振り返ると、パットはリオに無秩序な社会でも正義を貫くことの大切さを教え続けていたように思います。それはリオの姉を売春宿から連れ出し、悪党に決闘に挑む最後のシーンで集結し、深い感動へと仕上げていきました。
「希望が見つかるまで歩き続けること」
伝説の2人のカウボーイと出会い、リオが見つけた答えです。
敬遠されがちな西部劇ですが、人生は自分次第でいつでもやり直せる、というシンプルなメッセージが伝わり、とても分かりやすい作品になっていました。
もしかしたら、罪に苛まれている人にこそ届いてくる映画かも知れません。
カッコいいイーサン・ホークを観たい人や、西部劇初心者にとてもおススメな1本です!
2021年に観た映画ベスト10とワースト5、そして最も衝撃的だった1本!
今回は、年末に投稿できなかった「2021年に観た映画ベスト10とワースト5」をランキングしたいと思います。
また「最も衝撃的だった1本」の映画にも出会ったので、そちらも記事に残したいと思います。
2021年の映画ライフ
2021年に観た邦画は5本、洋画は57本で合計62本鑑賞しました。(2回目以降の鑑賞を合わせると80本くらいです。)
毎年100本鑑賞を目指していますが、今回も遠く及ばずでした(^^;)。
そんな2021年の映画ライフのベスト10をランキングしてみました。(実は毎年Excelでリスト化してます。)
2021年に鑑賞した映画ベスト10
1位 イン・トゥ・ザ・シー(2014年製作/アメリカ)
2位 ザ・ゴースト・ストーリー(2017年製作/アメリカ)
4位 風をつかんだ少年(2018年製作/イギリス・マラウイ合作)
6位 聖なる犯罪者(2019年製作/ポーランド・フランス合作)
8位 ストックホルム・ケース(2018年製作/カナダ・スウェーデン合作)
9位 ハクソー・リッジ(2016年製作/アメリカ・オーストラリア合作)
10位 ホテル・ムンバイ(2018年製作/オーストラリア・アメリカ・インド合作)
2位に輝いた「ザ・ゴースト・ストーリー」の記事↓
6位に輝いた「聖なる犯罪者」の記事↓
7位に輝いた「クレイジーズ 42日後」の記事↓
8位に輝いた「ストックホルム・ケース」の記事↓
10位に輝いた「ホテル・ムンバイ」の記事↓
自分でもびっくり、思いのほか海の漂流サバイバル映画がベスト1位でした。絶望的な状況でもあきらめなかった遭難者たちの知恵や助け合う姿に惹きつけられました。昨年のお正月に観たのですが、鑑賞後の感動や爽快感は今も胸を熱くさせます。
今回のランキングを見ると、半分以上は実話ベースの作品になります。
1位「イン・トゥ・ザ・シー」、4位「風をつかんだ少年」、6位「聖なる犯罪者」、8位「ストックホルム・ケース」、9位「ハクソー・リッジ」、10位「ホテル・ムンバイ」。
やはり実話をなぞるストーリーは心に訴えるものがありますね。
そして、ひどい映画にも出会いました(^^;)。
さすがに途中でリタイアするほどではありませんでしたが、この時間は何なんだろうと思いながら鑑賞していました…。
2021年に鑑賞した映画ワースト5
1位 ロックダウン(2021年製作/イギリス・アメリカ合作)
2位 アサシンクリード(2016年製作/イギリス・フランス・アメリカ・香港合作)
3位 アンチ・ライフ(2020年製作/カナダ)
4位 ミッドサマー(2019年製作/アメリカ)
5位 トゥモロー・ウォー(2021年製作/アメリカ)
ワースト1位の「ロックダウン」については、主演がアン・ハサウェイということで内容も確認せずDVDを借りてしまいました。
コロナ禍で撮影されたことや、ロックダウンを描いているのは時代を反映して面白味があったのですが、宝石強奪を企てる辺りからストーリーの方向性が見えなくなっていました。
キュートなアン・ハサウェイを観るには良かったかも知れません…。
ワースト2位の「アサシンクリード」は、現在と過去を行き来しながら人類の謎に迫るというミステリーアクションです。着想が面白いと思ったのですが、観ていくうちにその設定に面倒臭さを感じてしまいました。壮大さがありますが、ゲーム感が否めません。
ワースト3位の「アンチ・ライフ」は、これもまたブルース・ウィルスの名前でDVDを借りてしまいました…。ブルース・ウィルス映画の新作は、私の中で要注意です。
2021年最も衝撃的だった映画
そして2021年に観た映画で、私の映画ライフ史上、最も衝撃的だった作品にも出会いました。
今まで観た中で最も鑑賞中に心を病みました…。
衝撃的だった映画
映画冒頭から人間の醜さや残酷さを突き付け、禁断の世界を覗いている気分でした。
でもこの映画がワースト映画にならないのは、観た人だけが味わうことのできる開放感や救いを体験できるからです。
169分もありR15指定です…。忘れられない映画になるのは確実ですよ。
↑映画2本目の記事で、ほとんど読まれることのなかった記事です(^^;。
まとめ
まだまだコロナ禍で新作映画の公開が少なくなっていますが、今年も良質な映画に出会えるといいなあと思っています。
いつも自分のExcelでリスト化して終わっていた映画日記ですが、ブログを始めたことでこうして記事にし、読んでもらえることがとても嬉しいです。
これは観た方がいい!という作品を映画ブログを書いている方たちに教えてもらいながら、2022年も映画ライフを楽しみたいと思います♪
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ミニシアターレポート!新宿で一番駅に近い映画館「新宿シネマカリテ」
今回はミニシアター応援プロジェクトと勝手に題し、ミニシアターのレポートをしていきたいと思います。
新宿駅東南口から歩いて2分のところにある新宿シネマカリテ。
ここは2012年に開館(リニューアル)した小さな映画館です。
飲食店の並ぶビルの地下にあり、映画の看板も目立たないため、うっかりしていると素通りしてしまいそうになります。
だけど一歩足を踏み入れると、都会らしい洗練された雰囲気で観客を迎え入れてくれます。
イエローの壁紙に映画ポスターが展示され、何だかとてもアーティスティックです。
階段を降りると自動ドアが開き、本日上映のプログラムが液晶デジタルで案内されています。
コロナ禍となり、ソーシャルディスタンスの足跡マークや除菌スプレー、AI検温器が置いてあるのはミニシアターでも基本スタイルとなっているようです。
古いミニシアターだとネットでチケットを購入できないところもありますが、こちらはムビチケで買うこともできるので、シネコンと変わらないスムーズな入場ができます。
※窓口でも購入できますが、クレジット決済ができないので要注意。
ミニシアターはロビーが見どころと言っても過言でないほど、オリジナルカラーにあふれています。
上映される作品や次回上映される作品のディスプレイをデザインチックに並べられ、鑑賞前の気分を盛り上げてくれます。
エレベーターも華麗にデコレーションされ、ムード満点です。
今回は平日の午前中に行ったため、観客もまばら。
ロビーには座席も用意してありますが、私はミニシアターに来ると展示品を観るのが楽しくて座って待つことは滅多にありません。
シネコンにはない映画ちらしがたくさん置いてあるので、訪れた人たちもチラシに夢中になっています。
劇場への案内は上映開始の10分前で、シネコンと同じスタイルです。
ただ入り口でチケットを見せることはありません。
スタッフは2名体制なので、窓口で対応してくれた人が劇場に案内してくれました。
この小ぢんまりとしたホスト感も居心地の良さを感じます。
座席を選ぶ際、窓口の人におすすめ席を聞いて選びました。
今回上映されるのは2番スクリーンで、座席数は78席です。
「D列、E列(5列)が見やすい」ということなので、E列で鑑賞しました。
ミニシアターはスクリーンも小さいので、前列に座っても見やすい作りになっています。
席は配置をずらしているので、前の人の頭で邪魔されることもありません。
ミニシアターで鑑賞する際は後ろだとスクリーンが小さく感じるかも知れません。前列がおススメですよ!
今回鑑賞したのが1971年に公開した『ベニスに死す』のドキュメンタリー映画ということもあり、客層は圧倒的に女性が多く、1人で来てる人が多かったように思います。
公開初日の初回時間だったこともあり、何やら配給会社らしきスーツを着た人たちが客の入り具合などを見学しているようでした。
以上、新宿シネマカリテをレポートしてみました。
ミニシアターはコロナ禍の影響もあり、存続の危機にあるようです。
映画好きとして今後少しずつ訪れたミニシアターをレポートし、その魅力を紹介して応援していきたいと思います。
ミニシアターに行ったことない人もぜひ、気軽に覗いてみて下さい。
自分だけの特別な空間となるかも知れませんよ。
『ベニスに死す』大好きな私が『世界で一番美しい少年』のドキュメンタリー映画を観て思ったこと
ルキノ・ビスコンティ監督の「ベニスに死す」(1971)で主人公を破滅に導く少年タジオ役を演じたビョルン・アンドレセンの50年間に迫ったドキュメンタリー。巨匠ルキノ・ビスコンティに見いだされて「ベニスに死す」に出演し、「世界で一番美しい少年」と称賛されたビョルン・アンドレセン。年老いた彼は、かつて熱狂の中で訪れた、東京、パリ、ベニスへ向かい、懐かしくも残酷な、栄光と破滅の軌跡をたどる。
2021年製作/98分/G/スウェーデン
引用元:映画com.
トーマス・マンの原作「ギリシア芸術最盛期の彫刻作品のような完ぺきな美しさ」の表現を見事具現化するような麗しさでスクリーンに登場したビョルン・アンドレセン。
世界中が彼の神々しいまでの美しさに心酔し、伝説的存在となって映画史に名前を残しました。
その後は表舞台で脚光を浴びることはなく、メディアも取り上げられることはありませんでした。
メジャー作品で言えば1本だけの映画出演に終わり、ビョルンの素顔を知る術がなかった世代(1970年代以降に生まれた人たち)は、『ベニスに死す』の映画のタージオはスクリーンの中にしか存在しないと思っていた人もいたかも知れません(少なからず私は公開からずいぶん後に鑑賞したので、架空の産物化していたように思います…)。
だけどビョルンは、ルキノ・ヴィスコンティ監督に見い出されるまで、ごく一般の少年に過ぎませんでした。
『ベニスに死す』の出演後から人生が大きく暗転し、人知れず宿命的な人生にもがき生きてきたことを、このこのドキュメンタリー映画で初めて明かされました。
当時から「美少年」と言われることを嫌悪していたビョルンは、賞賛し続けるメディアや熱狂的ファンに戸惑っていたということ。
彼への眼差しは常に欲に溢れたもので、身勝手なイマジネーションを押し付けられ、それを演じなければいけなかったということ。
自分のためではなく大人の指示に従うしかなかった少年時代を、ビョルンは訥々(とつとつ)と語りました。
彼にとってあの映画は呪いのようなもので、今でも解き放たれることができずにいるように見えました。
私は『ベニスに死す』を信仰するような気持ちで観てきただけに愕然としました…。
もしかしたら自分もまた、彼が最も嫌悪する対象にいたのではないのかと。
このドキュメンタリー映画は、50年後のビョルンの荒れ果てた生活風景から始まります。家主から「危険人物」とまで言われていることや、不甲斐ない暮らしに恋人が叱り続けている姿を見せ、完全に『ベニスに死す』のビョルンのイメージを破壊させました。
もしかしたらこれは、ヴィスコンティ監督に対する、あるいは『ベニスに死す』を愛してきた映画ファンへの復讐ではないかと思い、先を観るのが怖くなってきました。
だけどビョルンは何が起きていたのか、そのときの心情をある程度話すと、どこかぼんやりとした物言いで言葉を濁します。
ドキュメンタリーなのでもう少し真実を解き明かしてもいいように思えますが、壮絶な出来事を闇に葬ろうとしているのを感じました。
制作サイドも彼の意向を汲み、それ以上踏み入れるのを断念しているようにみえます。
(かつて観たマイケル・ジャクソンのドキュメンタリー番組で、本人の意向に沿わない形で放送した「Living with Michael Jackson」のようなイメージを歪ませる悪質さはありませんでした。両者の真摯な姿勢を感じられます。)
66歳になったビョルンは、白くなった長い髪と髭を生やし、老いた自分を隠すことなくありのままの姿をカメラに晒しました。
だけどその愁いを帯びた表情は、『ベニスに死す』で観たタージオと重なります。
ビョルンは時を経ても内気で繊細で傷付きやすく、少年のような無防備さが失われていないことに私は気付きました。
ただ時が過ぎただけー。
リド島の海辺に佇むビョルンを静かに映し続け、このドキュメンタリー映画は幕を閉じます。
それは『ベニスに死す』のラストシーンと同じ場所、同じカットでした。
まるで外見はまやかしであるということを訴えかけているようにも思えました。
ビョルンにとってこのドキュメンタリーの撮影が、決別と再生へ繋がることを祈るような気持ちで映画館を出ました。
老人の意外さに期待と裏切りが愉しめる映画『ドント・ブリーズ2』
あれから8年。盲目の老人は、惨劇の起こった屋敷でひとりの少女を大切に育てていた。少女と2人だけの生活を誰にも邪魔されないよう、静かに暮らしている老人だったが、少女に向ける表情には言いようのない不気味さが漂っていた。そんな2人の前にある時、謎の武装集団が現れる。彼らが少女を狙って屋敷に踏み入ってきたことから、老人の狂気が再び目を覚ます。(2021年製作/98分/R15+/アメリカ)
引用元:映画com.より
前作絡みの期待と裏切りが楽しい
『クワイエット・プレイス』と同様、先鋭的なホラー映画としてスマッシュヒットし、予定していなかった続編を作ることになった本作。
『クワイエット・プレイス』は前作のような新鮮な興奮を味わうことができませんでしたが、『ドント・ブリーズ』の続編は、前作をさらに色付けするような新しいドラマの盛り上がりを見せ満足度の高い作品になっていました。
前作は「強盗に入った家の老人は実はとんでもない狂人だった」という落し方が鮮やかでしたが、今回はその狂人であった老人が主人公です。
視点を反転させた新しさや、「それから8年後ー」と書かれたオープニングの説明が前作の不穏さを匂わせ、妙にゾクゾクとさせてくれます。
しかしあの惨劇が再び…と思いきや、映し出されたのは少女と身を寄せ合って暮らしている老人の意外すぎる姿でした。
2人の絆は固く、老人の愛情深さが全面に伝わってきます。
前作で見た身震いするような狂人ぶりが霞んでしまっているので、思わず戸惑わずにいられませんでした。
この少女はいったい…? 娘であるなら母親は…?
前作では事故で亡くした娘の喪失感から復讐心が目覚め、自分の子供を産ませるために女性たちを監禁していたのを思い出します。
娘への異常な執着心が絡んでいるのだと思うと、この少女との関係性を探ることが大きな見どころとなっていきました。
残酷描写で仕上げたアンチヒーロー感
前回はPG12指定(12歳未満は要注意)での公開です。
老人の鋭い聴覚によって、「音を立てられない」焦燥感で若者たちを追い詰め、暗闇の密室の恐怖を見事に展開させていきました。
続編は思い切ってR15指定(15歳未満は不向き)での公開ということで、心理的ホラーというよりも残酷な暴力描写が見せ場にもなっていました。
今回相手となるのはプロの犯罪集団ですが、序盤から見せつける殴打シーンで老人より極悪人であることが強調されています。
そのため、その後に繰り広げられる壮絶な戦いは、完全に老人に感情移入してしまいました。前作で老人の正体を知っていても、救世主に見えてしまう不思議。
観る人の感情を巧みに操る製作サイドの仕掛けが、小気味良くも感じました。
たどり着く真実がやっぱり予想外!
※ネタばれあり
最後まで観終わると、完全に感情を弄ばれてしまっていたことに気付きました。
老人の勇敢な少女奪還劇は、予想外の形で幕を閉じました。
結局、少女の両親は臓器目的のために娘を誘拐したということ。
老人は火事で逃げてきた小さな少女を連れ去って育てたということ。
その事実だけがはっきりと描かれていますが、火事が起きる前のことがぼやけています。
臓器移植を計画できたのは、最初から両親は娘を愛していなかったということなのかも知れません。だとしたら、少女が虐待されていた子供であったことを描けば、少女を連れ去る理由や、老人の最後の懺悔ももっと心揺さぶれらるものがあったように思います。
しかし前作同様、善悪が曖昧(あいまい)なのがこの映画の面白さなのでしょう。
人はいつだって他人を断片的にしか知ることができないことを改めて思い知らされた結末でした。
続編としてではなく、単体でも十分に愉しめる1本です。
映画『ベニスに死す』が好きすぎて、舞台となったリド島に行ってきた話
前回の記事の続きです。↓
『ベニスに死す』の映画に陶酔しきった私は、その世界観を味わい尽くしたくて、ついにイタリアへと旅立ちました。(これは2006年10月の旅日記です。)
メインの舞台となった場所は、ベニス本島から水上バスで20分ほど先にあるリド島です。
10月のオフシーズンのため、船内は人がまばらでした。
対岸に見えるベニス本島が遠ざかり、穏やかな海原を走ります。
リド島はヴェネツィア国際映画祭の開催地ですが、高級リゾート地としても人気があります。南国ムードが漂う優雅な街並みです。
船着き場から歩くこと10分ほど。
ついに『ベニスに死す』で、老作曲家アッシェンバッハと少年タージオが運命的な出会いを果たしたホテル・デ・バンに辿り着きました。
エレガントな装飾が施され、クラシカルな雰囲気を漂わせています。
このホテルは1900年に創設され、原作者トーマス・マンも実際このホテルに滞在し、『ベニスに死す』さながらの体験をして本に書き起こしたそうです。
映画のロケ地と、原作者の実話の舞台が一緒なので、感慨もひとしおでした。
アッシェンバッハがタージオの母親に声をかけようとした幻のシーンは、恐らくここで撮影されました。
映画の香りを色濃く感じる場所です。
映画の名シーン↓
ホテルから徒歩2~3分のところに、ビーチがあります。
映画ではホテルが海岸に面しているように見えましたが、道路を挟んだ先にありました。
まるで神殿のようにそびえ立つホテル・デ・バン。
あの窓からアッシェンバッハは、砂浜を歩くタージオを眺めていました。
映画名シーン↓
海で戯れるタージオと、それを愛おしく見つめるアッシェンバッハ。
木陰で物書きをするアッシェンバッハと、ふっと振り返るタージオ。
そしてタージオの姿を目に焼き付けて息絶えるアッシェンバッハのラストシーンが思い起されます。
場所は変わって、本島ベニスへ。
散策に行くタージオ一家を、アッシェンバッハが追ったサンマルコ広場やベニスの街。
映画ではコレラ菌が蔓延して物々しい雰囲気でしたが、どこを切り取ってもロマンチックな風景に夢心地の気分になりました。
この旅は、『ベニスに死す』の舞台となった場所を巡り歩き、心ゆくまでの映画世界を追体験することができました。
特にリド島の海を見たときは、テーマ曲であるグスタフ・マーラーの「交響曲第5番アダージェット」が脳内に駆け巡り高揚感に浸りました。
映画名シーン↓
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
映画『ベニスに死す』これ以上にない純愛に、これ以上にないほど酔い痴れてしまう
イタリアの不朽の名作『ベニスに死す』(1971年公開)に出演したビョルン・アンドレセンのドキュメンタリー映画『世界で一番美しい少年』が、2021年12月17日(金)に全国で公開されます。
『ベニスに死す』は私にとって特別な作品なので、改めてその魅力を見つめ直していきたいと思います。
(古い映画なのでネタバレありで書きます。)
これ以上にない純愛
人が人に魅せられ身を焦がしていく様を、これほどまでに丹念に映像に綴った作品はないのではないかと思います。
セリフも少なく、その想いが吐露されることもありません。
映画鑑賞者はただ主人公アッシェンバッハの眼差しや、しぐさ、行動で彼の心を読み解いていきます。
それだけにこの映画の投入感は凄まじいものがありました。
私が初めて『ベニスに死す』を観たのは、20歳くらいのときでした。
当時の私がどれほど製作者が意図したものを汲み取れたか分かりませんが、厳格で高名な作曲家だったアッシェンバッハが美しい少年に魅せられ、少年を追ってベニスを彷徨う姿にどうしようもないほど打ちのめされたのを思い出します。
私の中で沸き起こったのは軽蔑や哀れみではなく、理解と共感でした。
まるで自分も老いたアッシェンバッハに成り果て、少年の浮世離れした美しさにひたすら心酔していたのかも知れません。
トーマンス・マンの原作では小悪魔的な美少年として描かれていますが、映像では優美さと繊細さにあふれ、とても儚げに映りました。
少年のフッと見せる表情も悲しげで、それがより一層アッシェンバッハ(と私)を惑わし憔悴させていたように思います。
手が届きそうで届かない距離。
伝えたいのに伝えられないもどかしさ。
そして狂おしいまでに秘められた想いと、葛藤。
当時も今もこの映画にはこれ以上にない純愛を感じ、観るたびに途方もない感情に溺れていく自分がいます。
結末に見たもの
結末は「生」と「死」、「若さ」と「老い」を対比させ、映画史に残る見事なラストシーンを生み出しました。
浜辺のパラソルの下。
白いデッキチェアに横たわったアッシェンバッハはこの世で一番美しく、一番愛おしいものを目に焼き付け、芸術家としてずっと追い求めていた「美」の答えに辿り着きます。
美とは神聖で人が作り得ないものであること。
美への渇望は絶望と一体化し、品位を保ち続けた人でさえ愚かにしてしまうということ。
どこまでも広がる碧い海。
陽光に照らされて煌めく少年のシルエット。
アッシェンバッハは浅瀬で振り返った少年が何かを伝えるようなしぐさをしたのを見て、恍惚とした笑みを浮かべ死を迎えます。
彼にとっての至福の瞬間が死と共に昇華していくのを静かに感じ、心震えました。
全編マーラーの曲が胸を締め付けるほど切なく、情感にあふれています。
衝撃すぎた世界観に魅せられて
初めて観たイタリア映画。
それもルキノ・ヴィスコンティ監督の耽美的な世界を知ってしまった私は、これをきっかけにイタリアやフランスなどのヨーロッパ映画の美しくも退廃的な作品を好むようになりました。
それらの映画の真髄をしっかりと味わえていないかも知れませんが、どこか危うく狂気じみた映画に感じたことないカタルシスに浸る自分がいました。
私にとって『ベニスに死す』は、これまでの映画の見方を真っ向から変えてしまうほどの衝撃でした。
もう後戻りできない世界観にほだされた私は、DVDやサウンドトラック、パンフレット(神保町の古本屋で入手!)、原作、脚本、写真集を買い揃え、ひたすら陶酔していたことを思い出します。
しかしそれだけでは空き足りず、いつしか映画の舞台となったベニスを訪れることが最大の夢となりました。
彼らと同じ場所に立って映画の世界を体感したい。
それから数年後、ついに夢を叶えにイタリアに向かうほど映画への想いを焦がし続けました…。
今回も最後までお読み頂き、ありがとうございました。
ミニシアターにハマる10の理由
はてなブログ10周年特別お題「私が◯◯にハマる10の理由」
はてな10周年記念のお題に再び参加します。
今回は、私が「ミニシアターにハマる10の理由」です。
10年くらい前からシネコン(同じ施設内に複数のスクリーンがある映画館)が次々と誕生し、ミニシアターが相次いで閉館に追い込まれました。
しかし多彩な作品を輩出してきたミニシアターは、これまで多くの映画ファンに愛されてきました。
映画産業が変わりつつある今こそ、ミニシアターの魅力について見直していきたいと思います。
- ・映画好きが集う
- ・映画館ごとのカラーがある
- ・1人で行きやすい
- ・待っている時間も楽しい
- ・ノスタルジックな気分になれる
- ・リバイバル作品の上映がある
- ・空いてる
- ・イベントが多い
- ・掘り出し物に出会える
- ・大人の隠れ家的存在
・映画好きが集う
ミニシアターは、その劇場でしか観ることができない作品を上映することが多く、わざわざそこに足を運んでくるような観客が集っています。
上映される作品も大衆向けではなく斬新で実験的なものや、作家性の強い作品を取り扱っているのも特徴です。
そのため、ちょっと変わったテイストを求める映画通な人々が訪れる場所にもなっています。
・映画館ごとのカラーがある
ミニシアターは、その劇場ごと上映される作品にカラーがあります。
ヨーロッパやアジアを中心とした作品、アート系の作品、ドキュメンタリー作品、アニメ系の作品など、上映する作品に運営者がこだわりを持っています。
また建物や内部もコンクリート打ちっぱなしの無機質な雰囲気や、色を統一させたモダンな雰囲気、温かみのあるレトロな雰囲気など、オリジナル性に溢れた空間が演出されています。
・1人で行きやすい
シネコンに比べ、ミニシアターは1人で訪れる人が目立ちます。
チケットを買う人も、ロビーで待つ人も、座席で寛ぐ人も、それぞれ思い思いの自分の時間を過ごしています。
ゴールデンウィークやクリスマス、正月など人で賑わう季節も1人で訪れる人が多いので、いつでも安心してふらりと立ち寄ることができます。
おひとり様歓迎ムードのミニシアターは、シネコンでは味わえない居心地の良さがあります。
・待っている時間も楽しい
上映作品や過去作品を紹介した雑誌・新聞の切り抜きが、ロビーの一角もしくは壁一面に展示されていたりします。
往年のスターやロングランヒットとなった名作映画の写真もずらりと並べられ、まるで映画美術館に来たような気分になります。
上映前の待ち時間も気分を盛り上げるような雰囲気作りが随所にちりばめられ、訪れた人たちをワクワクさせてくれます。
・ノスタルジックな気分になれる
1980年代にミニシアターブームとなり、そこから個性あふれる小さな劇場が次々と誕生しました。そんな当時の香りを残した歴史ある劇場が今も存在しています。
新しく改装オープンしたミニシアターは、最先端技術を取り入れたシネコンと比べれば規模が小さく低コストな仕上がりになっていたりもします。
またネット予約が主流となった今も、自由席や整理番号制をそのまま継続しているミニシアターもあり、どこかノスタルジックな雰囲気が漂っています。
・リバイバル作品の上映がある
コロナ禍で上映する作品が減少し、最近ではシネコンもリバイバル作品を上映する企画が取り入れられるようになりました。
しかしミニシアターは昔から見逃した映画や、一度スクリーンで観てみたかった名作映画を積極的に上映してきました。
時にその劇場が贔屓にしていた監督や俳優が亡くなったりすると特集上映を組み、スクリーンで蘇らせてくれることもあります。
ミニシアターだからこそセレクトされたリバイバル作品を、存分に楽しむことができます。
・空いてる
独自路線の映画を上映することが多いため、シネコンに比べれば圧倒的に空いています。
ときどき上映作品が話題となって満員御礼となることもありますが、混雑で不快な思いをすることはほとんどありません。
座席も希望に近い場所を確保しやすく、フードやドリンク、グッズを買う売店で長らく待たされることも滅多にありません。
・イベントが多い
ミニシアターは観客との距離が近く、自主映画を始めとするトークイベントや舞台挨拶が頻繁に行われています。
上映する作品も日替わりで変えたり、スタンプラリーやセミナーを開催することもあります。
ミニシアターの独自な集客作戦が、これまでと違う角度から映画を見つめさせてくれます。
・掘り出し物に出会える
ときどきミニシアターから異例のロングランヒット作が誕生するときがあります。
1989年に公開された『ニュー・シネマ・パラダイス』はヨーロッパ映画とミニシアターブームの火付け役となり、映画産業に革命をもたらしました。
『ライフ・イズ・ビューティフル』『アメリ』『トレイン・スポッティング』『この世界の片隅に 』『カメラを止めるな!』などもミニシアターから誕生し、口コミで広がって拡大公開した作品です。
ミニシアターでいち早くおさえた作品が巷で話題になると、その喜びはひとしおで発掘感を味わえます。
・大人の隠れ家的存在
特に東京のミニシアターは路地裏や地下に建てられているところが多く、看板がなければ通り過ぎてしまうようなひっそり感があります。
訪れる人たちに子供の姿もほぼなく、落ち着いた大人のプライベート空間を醸し出しています。
映画が好きな人にとことん映画に集中させてくれるミニシアターは、まさに大人の隠れ家ととして贅沢な映画時間を体験させてくれます。
まとめ
ミニシアターの魅力について独自にまとめてみました。
映画館には非日常の時間が流れています。
映画館に向かおうと思った瞬間から心躍り、その人だけの特別な思い出が刻まれていきます。
もしかしたら人生を変えるような作品に出会えるかも知れません。
それは映画館という特有の雰囲気が、一層鑑賞者の心に映画の感動を響き渡せているからだと思います。
ぜひ心ゆくまで自分だけの特別な映画時間を堪能してみて下さい。
私がフランス映画にハマる10の理由
はてなブログ10周年特別お題「私が◯◯にハマる10の理由」
はてな10周年記念のお題に再び参加します。
今回は、私が「フランス映画にハマる10の理由」です。
ハリウッド映画にはないフランス映画の魅力について、自分なりに感じたことを洗い出してみました。
- ラストの余韻がすごい!
- 静かに泣ける
- 会話が哲学的
- ミニシアターで公開される
- リアルの追求
- 恋愛要素が絡む
- おしゃれな気分になる
- フランス女性がカッコいい
- フランス語が心地よい
- ネガティブ思考が共感できる
ラストの余韻がすごい!
フランス映画がキレイに完結することはめったにありません。
その先が観たかったのに、そんなフラストレーションを抱えながらエンドクレジットを眺める人も多いかも知れません。
しかし結末を鑑賞者に委ねたことで、その分主観に浸ることができます。答えのない答えを探す時間こそ、フランス映画の最大の醍醐味だと思っています。
静かに泣ける
フランス映画は起承転結があまりなくストーリーが淡々と進みます。演技も抑えめなので登場人物の心理が見えにくところがありますが、実は何気ないしぐさや言葉に観念的なものが隠されているのに気付ける瞬間があります。
そんなときは思いっきり泣けるというよりは、心に染み入った涙が静かに零れていきます。
会話が哲学的
フランス映画は意味があるのか、ないのか分からない謎めいた会話劇がつきものです。時に主人公の心の声を拾い続けることもあります。
独自の美学や思想の語らいを見ていると、映画というよりは小説を読んでいるような感覚にもなっていきます。
また形容も表現豊かで詩的なものを感じます。語彙の豊富なフランス語だからこそ繊細な言葉が紡ぎ出され、彼らが熱く語る哲学に魅了されます。
ミニシアターで公開される
フランス映画は大衆向けではないため、大抵ミニシアター(単館系映画館)で公開されます。劇場には、そこでしか観ることのできない作品を求めたコアなファンが集り、独特な空気感を感じながら鑑賞することができます。
私がかつてフランス映画をよく観ていた映画館は、「シャンテ・シネ 日比谷」でした。
今はシネコンになってしまいましたが、当時フランス映画特集をよく上映していたのでお気に入りの映画館でもありました。
ミニシアターという場所で、フランス映画の思い出が根付いている人も多いと思います。
リアルの追求
フランス映画は社会問題を見つめさせるようなメッセージが込められています。
どちらかと言えばマイノリティな人たちに焦点を当て、彼らの生きづらさや悲劇を描写します。
『アメリ』のような可愛らしい作品もありますが、基本的にファンタジーやホラーなどの非現実的な作品はあまり観られません。
主軸となるのは濃密な人間ドラマで、どこか退廃的で狂気が絡んだものを感じます。しかし人間の本質を炙り出すようなリアルな描写が魂に響き渡ります。
恋愛要素が絡む
恋愛大国のフランス。
映画でもほぼ確実にラブストーリーが絡んできます。
年代や性別を問わず、プラトニックな愛や溺れた愛、湾曲した愛や禁断の愛など様々な愛を切り取り、どれもタブー視しません。
フランス社会は多様性を尊重するので、早いうちからLGBT問題も映画に取り入れてきました。時に過激で大胆すぎるものがありますが、人を愛すことに罪が無いことや、愛こそ人生であることを謳っているように見えます。
その愛はとても情熱的で眩ゆいものに映り込んでいきます。
おしゃれな気分になる
フランスの芸術や文化は、とても洗練されたものを感じます。
街並みやファッションはもちろん、部屋の色合いやさり気なく置かれた絵やオブジェ、ヴィンテージ家具などどれも心惹かれます。またそこで暮らす彼らの自由な生き方に優雅さも感じられ、憧れが募ります。
そんなフランス映画に入り込んだ後は、おしゃれな時間を過ごしたような気分を味わえます。
フランス女性がカッコいい
フランス映画に出てくる女性たちは自尊心が高く、人に媚びることはありません。いつでも自分の信念を貫くことを大切にしているので、倫理観を問うような展開に驚くこともあります。
女流作家マルグリット・デュラスの実話を描いた映画『あなたはまだ帰ってこない』は、それを象徴するような物語でした。
フランス女性の潔い生き方がフランス映画の上質な魅力ともなっています。
フランス語が心地よい
フランス語は世界一美しい言語とも言われています。
抑揚の少ない滑らかな響きは耳心地が良く、いつまでも聴いていたいと思わせます。声のトーンも絶妙で、ささやくような優しさを感じられます。
フランス語の美しい発音が、フランス映画をよりロマンチックに彩っているように思います。
ネガティブ思考が共感できる
フランス映画を観ていると、コメディ作品以外は物憂げな表情をしている主人公が多く陰鬱な雰囲気が漂います。
恋愛に開放的で我流を貫くフランス人ですが、悲観主義な一面も多く見られます。
起きてもいない未来を案じたり、相手の心理を勝手に推測したりして、自暴自棄になる姿をとらえていくのも特徴的です。
しかしそんな彼らの負の連鎖に深く共感してしまうのは、同じく悲観主義の自分の気質と似たものを感じるからかも知れません。
まとめ
フランス映画は難解で退屈なイメージがあります。
実際そんな映画があることは否定できませんが、でも何故か鑑賞後、格別な気持ちに満たされることがあります。
今回フランス映画の特徴や魅力を記事にしたことで、その答えが分かったように思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
沈黙ホラー映画『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』の続編で本当に描きたかったものとは?
あらすじ
生まれたばかりの赤ん坊と耳の不自由な娘のリーガン、息子のマーカスを連れ、燃えてしまった家に代わる新たな避難場所を探して旅に出たエヴリン。一同は、新たな謎と脅威にあふれた外の世界で、いつ泣き出すかわからない赤ん坊を抱えてさまようが……。
2021年製作/97分/G/アメリカ
引用元:映画com.
ホラー映画の続編は鮮度が鍵
2018年に公開された『クワイエット・プレイス』。
「音を出したら即死」という斬新な設定が極度の緊張を生み、鑑賞者に未だかつてない恐怖をシンクロ体験させました。
映画が描いたのは、沈黙。
シンプルながらもそのたった1つのルールが、荒廃した地球で生き残る術でした。
無音の中で繰り広げられる「何者か」とのサバイバル劇は息をのむほどスリリングで、先鋭的なホラー映画としてスマッシュ・ヒットを記録しました。
その続編が公開されると聞いたとき、せっかくの世界観を続編が壊してしまうことを危ぶんだ映画ファンも多いかも知れません。
過去、新感覚のホラー映画として話題を呼んだ『キューブ』(1997年)や『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)も、前作にダメージを及ぼすほどの失敗作に終わったことが思い起こされます。
何しろこれらの映画は、鑑賞者に未体験の恐怖を与えたことが成功のカギとなりました。
その未体験を一度味わってしまうと、同じ鮮度での恐怖は味わえません。
どんなにスケールアップしても、ホラー映画の続編がなかなか前作を超えられない理由はそこにあります。
本作で描かれたもの
監督・原案・脚本を手懸けたジョン・クラシンスキーは、前作のサイレント感を潔く手放すことで新たなドラマを生み出しました。
同じ手法で鑑賞者を満足させることができないと分かっていたのかも知れません。
そのせいか異色だった恐怖や緊張度合が薄まってしまったことは否めないでしょう。
続編では父親(夫)を亡くした家族が、生まればかりの赤ちゃんを抱えて避難場所を探し、逃げ惑う一連の逃亡劇が切り取られていきます。
後半になると、ホラーというよりはパニック映画の領域になりつつありました。
しかし今回主軸になったのは、子供たちでした。
前作で守られるべき存在だった彼らは、父親が必死で伝えたメッセージを胸に響かせているのが分かります。
前作の父との会話やつながりを感じることで、この続編が身震いするほどの感動を描いていることに気付くことでしょう。
ジョン・クラシンスキーは前作で父親役も演じています。
キリアン・マーフィーの存在感
謎の生存者として新たに登場したエメット役を、碧い瞳が印象的なアイルランド出身の俳優キリアン・マーフィーが演じています。
キリアンと言えばゾンビ映画『28日後…』(2002年)で主演を務め、一躍知名度を上げました。
彼の魅力の1つとなっているのが弱弱しさです。
それ故、崩壊した世界の危機感をより漂わせ、鑑賞者を見事に絶望の淵に陥れました。
知的で繊細なイメージを持つキリアンは、本作でもミステリアスな雰囲気を醸し出しています。
決して頼りがいのある救世主でないところが期待を裏切りません。
キリアンファンとしては、聴覚障害を持つ少女との対話シーンが見どころでしょう。
手話ができず計画を伝えられないことに苦悶しているキリアンを、少女が「ゆっくり喋って」と諭すシーンがあります。
少女に顔を両手に添えられたキリアンは、完全に主導権を握られていました。
この1ショット、彼の魅力が引き立っているのを見逃せません。
そして良い人なのか悪い人なのかは伏せておきますが、『28日後…』で見られたキリアンの覚醒を本作でも観ることができ、ファンにとってはたまらない1本になるはずです。
何と第3弾の製作も決定したようです。長編ホラー映画となりそうですね!