あらすじ
生まれたばかりの赤ん坊と耳の不自由な娘のリーガン、息子のマーカスを連れ、燃えてしまった家に代わる新たな避難場所を探して旅に出たエヴリン。一同は、新たな謎と脅威にあふれた外の世界で、いつ泣き出すかわからない赤ん坊を抱えてさまようが……。
2021年製作/97分/G/アメリカ
引用元:映画com.
ホラー映画の続編は鮮度が鍵
2018年に公開された『クワイエット・プレイス』。
「音を出したら即死」という斬新な設定が極度の緊張を生み、鑑賞者に未だかつてない恐怖をシンクロ体験させました。
映画が描いたのは、沈黙。
シンプルながらもそのたった1つのルールが、荒廃した地球で生き残る術でした。
無音の中で繰り広げられる「何者か」とのサバイバル劇は息をのむほどスリリングで、先鋭的なホラー映画としてスマッシュ・ヒットを記録しました。
その続編が公開されると聞いたとき、せっかくの世界観を続編が壊してしまうことを危ぶんだ映画ファンも多いかも知れません。
過去、新感覚のホラー映画として話題を呼んだ『キューブ』(1997年)や『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)も、前作にダメージを及ぼすほどの失敗作に終わったことが思い起こされます。
何しろこれらの映画は、鑑賞者に未体験の恐怖を与えたことが成功のカギとなりました。
その未体験を一度味わってしまうと、同じ鮮度での恐怖は味わえません。
どんなにスケールアップしても、ホラー映画の続編がなかなか前作を超えられない理由はそこにあります。
本作で描かれたもの
監督・原案・脚本を手懸けたジョン・クラシンスキーは、前作のサイレント感を潔く手放すことで新たなドラマを生み出しました。
同じ手法で鑑賞者を満足させることができないと分かっていたのかも知れません。
そのせいか異色だった恐怖や緊張度合が薄まってしまったことは否めないでしょう。
続編では父親(夫)を亡くした家族が、生まればかりの赤ちゃんを抱えて避難場所を探し、逃げ惑う一連の逃亡劇が切り取られていきます。
後半になると、ホラーというよりはパニック映画の領域になりつつありました。
しかし今回主軸になったのは、子供たちでした。
前作で守られるべき存在だった彼らは、父親が必死で伝えたメッセージを胸に響かせているのが分かります。
前作の父との会話やつながりを感じることで、この続編が身震いするほどの感動を描いていることに気付くことでしょう。
ジョン・クラシンスキーは前作で父親役も演じています。
キリアン・マーフィーの存在感
謎の生存者として新たに登場したエメット役を、碧い瞳が印象的なアイルランド出身の俳優キリアン・マーフィーが演じています。
キリアンと言えばゾンビ映画『28日後…』(2002年)で主演を務め、一躍知名度を上げました。
彼の魅力の1つとなっているのが弱弱しさです。
それ故、崩壊した世界の危機感をより漂わせ、鑑賞者を見事に絶望の淵に陥れました。
知的で繊細なイメージを持つキリアンは、本作でもミステリアスな雰囲気を醸し出しています。
決して頼りがいのある救世主でないところが期待を裏切りません。
キリアンファンとしては、聴覚障害を持つ少女との対話シーンが見どころでしょう。
手話ができず計画を伝えられないことに苦悶しているキリアンを、少女が「ゆっくり喋って」と諭すシーンがあります。
少女に顔を両手に添えられたキリアンは、完全に主導権を握られていました。
この1ショット、彼の魅力が引き立っているのを見逃せません。
そして良い人なのか悪い人なのかは伏せておきますが、『28日後…』で見られたキリアンの覚醒を本作でも観ることができ、ファンにとってはたまらない1本になるはずです。
何と第3弾の製作も決定したようです。長編ホラー映画となりそうですね!