映画『ストックホルム・ケース』犯人と人質の愛を描いた実話
久しぶりイーサン・ホークの新作映画を観れました。
制作は2018年ですが、日本劇場公開は2020年11月。
コロナ禍でハリウッドの新作映画の公開が少なくなっている中、ここにきてイーサン・ホークの新作が観れるのはファンとしてギフトをもらった気分です。
あらすじ
何をやっても上手くいかない悪党のラースは、自由の国アメリカに逃れるためストックホルムの銀行に強盗に入る。ビアンカという女性を含む3人を人質に取り、刑務所に収監されていた仲間のグンナーを釈放させることに成功したラースは、続けて人質と交換に金と逃走車を要求。しかし、警察が彼らを銀行の中に封じ込める作戦に出たことで事態は長期化。次第に犯人と人質の関係だったラースとビアンカたちの間に、不思議な共感が芽生え始めていく。
引用元:映画com.
悪になりきれいない強盗犯
舞台となったのは1973年、ストックホルムの巨大銀行。
人質が犯人に協力的になるという「ストックホルム症候群」の語源を生み出した実際の事件を描いています。
銀行強盗と人質立てこもりを企てたアメリカ人のラース(イーサン・ホーク)。
その犯行は鮮やかというよりは、場当たり的なやり口でドタバタ感満載です。
ラースなりに武器を用意して計画してきたはずですが、人の行動を読む洞察力や冷静さが欠けているせいで、思わぬ展開にいちいち挙動不審になります。
このラースの小心者ぶりが始終コミカルな空気が漂わせ、シリアスな状況下でも笑いが込み上がってきます。
そもそも彼は人を傷付ける気はさらさらありません。
事件発生時、発砲してきた警察に「女が死んだらどうする!?」と人質の心配をして激昂します。冒頭ですぐ様、彼が真の犯罪者になり切れていないことが分かります。
犯行も隙だらけで、もっと警戒した方がいいのでは?と思いながら行く末を見守る私も、早くからこの犯人に好感を持ってしまいました。
配役がイーサン・ホークという説得感
こんな弾けたイーサン・ホークは観たことがない。
最近の出演映画『ブルーに生まれて』や『魂のゆくえ』など、重苦しい役柄が続いていましたが、本作では「らしからぬ」演技を全開させています。
長髪にちょび髭、カウボーイハットに革ジャンとウエスタンブーツ、そしてサングラスというオールディーズ風のいで立ち。まるで取ってつけたような違和感のあるスタイルですが、それでもおしゃれに見えてしまう不思議。
また奇声を上げて自画自賛するなど、喜怒哀楽激しいイーサン・ホークの姿に愛嬌を感じてしまいます。
いつもの繊細で、哀愁漂う雰囲気はどこへやら。
何故、人質が犯人に加担したのか、それはイーサン・ホークだから。
この言葉に尽きてしまいます。
初老感は出てきましたが、整った顔立ちと醸し出す色気はやっぱり魅力的です。
そう、この映画は「ストックホルム症候群」というより、犯人と人質の愛のドラマに仕上がっています。
それ故、配役ですでに人質ビアンカの揺れる心を説得しているように思えます。
だって強盗として入ってきたのが、イーサン・ホークですよ。おかしな変装も、人情味あふれる素顔も満点すぎです。
クローズドサークル作品で見られる心情変化
本作を観て、2015年のアメリカ映画『捕らわれた女』を思い出しました。
こちらも実話ベースで、逃亡犯が家に押し入ってシングルマザーを人質に立てこもる事件を描いています。この犯人はすでに殺人事件を起こしているので、『ストックホルム・ケース』とは違って緊迫感が漂います。
しかし人質となった女性もまたクスリを断つことができず、罪を背負う人間でした。
完璧でない2人から生まれるぎこちない会話は、挫折に満ちています。
やがて犯人と人質は罪と向き合い、慰め、人生をやり直すことの意味を見出していきます。派手な展開はないものの、微妙な駆け引きや心理変化が見どころとなっていました。
犯人と人質。
それぞれ絶対絶命な状況下で意識した「死」への恐怖。そこから見えるお互いの弱さ。理解と共感で強いむすびつきが生まれ、運命共同体のような関係性をなんとなく理解できました。
『ストックホルム・ケース』や『捕らわれた女』など、こういったクローズドサークル・サスペンス作品は人の心情変化をじっくり見れるので、とても興味深いです。
今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。