映画ファンに愛され続けているイランの名作『友だちのうちはどこ?』
イラン北部にあるコケール村の小学校。モハマッドは宿題をノートではなく紙に書いてきたため先生からきつく叱られ、「今度同じことをしたら退学だ」と告げられる。しかし隣の席に座る親友アハマッドが、間違ってモハマッドのノートを自宅に持ち帰ってしまう。ノートがないとモハマッドが退学になると焦ったアハマッドは、ノートを返すため、遠い隣村に住む彼の家を探し回るが、なかなか見つけることができず…。(1987年製作/83分/イラン)
引用元:映画com.
ノートに込められた想い
友達のノートを返そうと村を奔走する少年の物語は、ごくシンプルなのに胸に迫るものがありました。
1冊のノート。
それが彼らの間でどれほど大切で重要なものなのか、明日でなく今日返すことがどれほど意味があることなのか、大人はだれも理解しようとしてくれません。
「宿題をしたらパンを買ってきて。」の一点張りの母親も、「洗濯物を投げて。」と指示するどこかの住人も、「タバコを買ってきなさい。」と無駄な用事を言い渡す祖父も、少年が抱えている非常事態に無関心です。
極めつけは、「そのノートの紙1枚くれないか?」と寄ってきた通行人。
拒否する少年から奪い取って紙を破る様子は、何とも言い難い不条理さに溢れていました。
少年の悲痛な訴えは、大人たちに届くことがありません。
そんな中でも必死に友達を想い続ける少年の健気さが、観る者の心を締め付けていきます。
ひしひし伝わる痛烈なメッセージ
1987年にイランで製作された本作。
当時(今も?)、自国イランでは社会的メッセージのある映画は上映禁止とされていたため、監督のアッバス・キアロスタミは児童映画を撮りました。
童話的なストーリーは、親子で鑑賞できる感動作として目に映るかも知れません。
だけどこのミニマムな世界で繰り広げられたドラマには、子供の存在意義や教育、大人の役割について痛烈にメッセージを投げかけられています。
宿題をやらなかった理由を尋ねられた児童は「畑仕事を手伝っていたから。」と答えます。
教師は「次からは宿題を先にしなさい。」と注意をして終わらせますが、児童が返事をすることがありませんでした。宿題を先にすることが難しいことを静かにほのめかしています。
主人公の少年が道中出会う子供たちは、家の仕事で忙しそうにしています。
学校から帰って友達と遊ぶことがあれば、ノートを返すためにあれほど友達の家を探し回ることもなかったかも知れません。
お互いの家も知らず、学校でつかの間の時間を過ごし家路を急ぐ子供たち。
大人の絶対的な言い分を押し付けられ、彼らは理不尽を受け入れて社会を見つめています。
イギリスでは「14歳までに見ておきたい50の映画」に選んでいます。
国際的な評価を得ているイラン映画
イラン映画は実はとても分かりやすいジャンルだと思います。
登場する人物は最小限に留められ、ごくありふれた日常にささやかな問題を溶け込ませて単調にストーリーを展開させていきます。
台詞もわりと少ないため、映像の細部までじっくり鑑賞することができたりします。
役者は素人を使うことが多く、ドキュメンタリーを観ているような感覚にもなってきます。
派手な演出やドラマチックさはないけれど、叙事的な懐かしさや哀愁が漂い、独特な味わい深さを残します。
そんなイラン映画は、近年、国際的な評価を得るようになりました。
ひと昔前の日本ではミニシアターでしか観ることができませんでしたが、アカデミー賞やカンヌ映画祭などの映画賞を受賞した作品はシネコンでも上映されるようになり、ますます注目されています。
本作も含め、唐突に迎えるラストもイラン映画の特徴かも知れません。
実は問題は解決せず明日も続くことを示唆しています。
大切なのは、厳しい社会でひたむきに生きる人々に寄り添うことであり、そこから何を学び変えていくかを観た者に委ねているように思えます。
イラン映画には、もしかしたら人々への一縷の希望が込められているのかも知れません。
同じくアッバス・キアロスタミ監督作『桜桃の味』もおすすめの1本です!