あれから8年。盲目の老人は、惨劇の起こった屋敷でひとりの少女を大切に育てていた。少女と2人だけの生活を誰にも邪魔されないよう、静かに暮らしている老人だったが、少女に向ける表情には言いようのない不気味さが漂っていた。そんな2人の前にある時、謎の武装集団が現れる。彼らが少女を狙って屋敷に踏み入ってきたことから、老人の狂気が再び目を覚ます。(2021年製作/98分/R15+/アメリカ)
引用元:映画com.より
前作絡みの期待と裏切りが楽しい
『クワイエット・プレイス』と同様、先鋭的なホラー映画としてスマッシュヒットし、予定していなかった続編を作ることになった本作。
『クワイエット・プレイス』は前作のような新鮮な興奮を味わうことができませんでしたが、『ドント・ブリーズ』の続編は、前作をさらに色付けするような新しいドラマの盛り上がりを見せ満足度の高い作品になっていました。
前作は「強盗に入った家の老人は実はとんでもない狂人だった」という落し方が鮮やかでしたが、今回はその狂人であった老人が主人公です。
視点を反転させた新しさや、「それから8年後ー」と書かれたオープニングの説明が前作の不穏さを匂わせ、妙にゾクゾクとさせてくれます。
しかしあの惨劇が再び…と思いきや、映し出されたのは少女と身を寄せ合って暮らしている老人の意外すぎる姿でした。
2人の絆は固く、老人の愛情深さが全面に伝わってきます。
前作で見た身震いするような狂人ぶりが霞んでしまっているので、思わず戸惑わずにいられませんでした。
この少女はいったい…? 娘であるなら母親は…?
前作では事故で亡くした娘の喪失感から復讐心が目覚め、自分の子供を産ませるために女性たちを監禁していたのを思い出します。
娘への異常な執着心が絡んでいるのだと思うと、この少女との関係性を探ることが大きな見どころとなっていきました。
残酷描写で仕上げたアンチヒーロー感
前回はPG12指定(12歳未満は要注意)での公開です。
老人の鋭い聴覚によって、「音を立てられない」焦燥感で若者たちを追い詰め、暗闇の密室の恐怖を見事に展開させていきました。
続編は思い切ってR15指定(15歳未満は不向き)での公開ということで、心理的ホラーというよりも残酷な暴力描写が見せ場にもなっていました。
今回相手となるのはプロの犯罪集団ですが、序盤から見せつける殴打シーンで老人より極悪人であることが強調されています。
そのため、その後に繰り広げられる壮絶な戦いは、完全に老人に感情移入してしまいました。前作で老人の正体を知っていても、救世主に見えてしまう不思議。
観る人の感情を巧みに操る製作サイドの仕掛けが、小気味良くも感じました。
たどり着く真実がやっぱり予想外!
※ネタばれあり
最後まで観終わると、完全に感情を弄ばれてしまっていたことに気付きました。
老人の勇敢な少女奪還劇は、予想外の形で幕を閉じました。
結局、少女の両親は臓器目的のために娘を誘拐したということ。
老人は火事で逃げてきた小さな少女を連れ去って育てたということ。
その事実だけがはっきりと描かれていますが、火事が起きる前のことがぼやけています。
臓器移植を計画できたのは、最初から両親は娘を愛していなかったということなのかも知れません。だとしたら、少女が虐待されていた子供であったことを描けば、少女を連れ去る理由や、老人の最後の懺悔ももっと心揺さぶれらるものがあったように思います。
しかし前作同様、善悪が曖昧(あいまい)なのがこの映画の面白さなのでしょう。
人はいつだって他人を断片的にしか知ることができないことを改めて思い知らされた結末でした。
続編としてではなく、単体でも十分に愉しめる1本です。