あらすじ
18世紀末の米ニューオリンズ。フランス移民のルイ(ブラッド・ピット)は当時25歳。最愛の妻と娘を亡くして絶望する彼に、美貌の吸血鬼レスタト(トム・クルーズ)が近づく。彼は、繊細な魂のルイに興味を覚え、永遠の命を共にする伴侶として彼を選ぶ。間もなく吸血鬼となったルイだが、大胆で冷酷なレスタトとは対照的に、他人の命を奪って生きることに耐えられなかった。
引用元:映画com.
トム・クルーズとブラッド・ピットの夢の共演!
この映画はキャスティング問題で、公開前から曰くつきの映画だった。
原作者アン・ライスが、レスタト役を演じるトム・クルーズに拒否反応を起こしたのだ。読者ファンも同調して反対運動まで起こし、映画は制作の危機にあった。
無理もない。
この物語で登場するヴァンパイア・レスタトは、長身で青白く、神秘的な美しさを兼ねそろえている。ヴァンパイアという退廃的な生き者像は、さわやかで健康的なイメージを持つトム・クルーズとは相反していた。
誰がこんなに、トム・クルーズが化けることを予想できただろうか。
役作りのために減量し、病的な風貌となった彼は、危険な色気を放った。これまでのイメージを完全に払拭させ、完璧なレスタト像を演じ上げたのだ。
反対していた原作者や読者からは大絶賛され、そこにトム・クルーズの並ならぬ意地が伺える。
一方、ブラッド・ピットはどうか。
実は「自殺ばかり考えているルイ役にうんざりしていた」と、インタビューで語っている。
自分の役柄に愛着を持つのが役者だと思うが、この役に関しては極めて否定的な発言をしている。
ブラッド・ピットの出世作と言えば『テルマ&ルイーズ』だ。無名だった彼を一気に表舞台に押し上げるきっかけとなった。
しかし本作でトム・クルーズというスーパースターとの共演で、さらに知名度を加速させたのは言うまでもない。
今では信じられない2大トップスターの夢の共演。
しかし、恐らく2人とも二度と演じたくない役柄ではないかと思う。
彼らはこの映画について語りたがらないし、続編のオファーも断っている。
今更ヴァンパイア役を引き受けることもないだろうし、そもそも共演も望んでいないだろう。お互いについて語る姿を見たこともない。
ファンとしては至極残念だが、本作を幻の映画として心にとどめるのに満足しようと思う。
アントニオ・バンデラスやキルティン・ダンスト、クリスチャン・スレイターも出演していて、すごく豪華な顔ぶれ。急死したリヴァー・フェニックスは、インタビュアー役を演じる予定だったのよね。
確立したヴァンパイア像
原作者アン・ライスは私生活で5歳の娘を病気で亡くしてから、取り憑かれたように「ヴァンパイアシリーズ」を書き始めたそうだ。
死人が蘇るという不老不死の存在に、救いを見出そうとしていたのだろうか。
ストーリーの中で登場人物たちは何度も生きることや、死ぬことを見つめている。
そんなアン・ライスの描くヴァンパイア像には、確立したものがある。
・十字架・ニンニクは苦手でない。
・日光を浴びると燃えてしまう。
・火に弱い。
・灰にならない限り、身体が損傷しても時間をかけて再生する。
・人間ではなく、動物の生き血で飢えをしのぐことができる。
・ヴァンパイアに生まれ変わるとき、生きているときの「死」を味わなければならない。そのため、かなりの苦痛を強いられる。
・ヴァンパイアになると、ヴァンパイアになる直前の体形・髪をそのまま維持する。
・読唇術がある。
・生き物を吸血するときは、心臓が止まる前に辞めないと自分も道連れにされてしまう。
・映画のルイは200年近く生きているが、中には1000年近く生きている高齢のヴァンパイアがいる。
・高齢であればあるほど力が強く、宙を飛ぶこともできる。
・同族を殺したものには、罰がある。
これ以外にも、アン・ライスの徹底したアイデンティティが盛り込まれている。
決してゴシックホラーを神話化せず、現代世界と融合させることで一つの種族として実際に存在するかのような説得感を与えてくる。
BLを匂わすヴァンパイア同士の関係
映画も原作も、実はボーイズ・ラブのような空気が漂っている。
しかしそちら方向には流れず、あくまでそれっぽい雰囲気を押し出し、観る者に委ねている。
何世紀も生きるレスタトは、共に生きるパートナーとしてルイを選んだ。
ビジュアルはもちろんのこと、絶望を抱えて生きるルイの繊細な性格に魅力を感じたのだろう。しかし従順なパートナーになることはなかった。
ルイはいつまでも人間的な心を失わず、人を殺めて生きる運命に苦悩し続けたのだ。その思想はヴァンパイア界では異質だったが、アントニオ・バンデラス演じるアルマンも、ルイに固執してしまう。
恐らくレスタトもアルマンも、ルイの中に人間だった頃の自分を見い出し、純潔なものを感じたのかも知れない。
秘めたる想いの中に憎悪が絡み、悲劇が起きる。
このどうしようもない背徳感が何故か美しく、胸に突き刺さっていく。
映画のレスタトは傲慢で卑劣だが、実は原作のレスタトは「悪人の血しか吸わない」主義を持っている。
好奇心旺盛で奔放な性格だが、家族や友人に愛情深いところもあり、師に対しては非常に礼儀正しい。そしてよく笑い、よく泣く魅力的なキャラクターなのだ。
ルイはその後どうなったのか。
相変わらず群れを遠ざけ、1人本に囲まれた家で暮らしている。
レスタトとときどき再会を果たす(レスタトが訪ねる)が、相変わらず拒絶している様子だ。それでもレスタトが窮地に立つと、どこからともなく手を差し伸べることもある。
この複雑な関係を何世紀も続けているのが興味深い。
アン・ライスの描く世界は、映画だけでなく原作も耽美で官能的だ。
ここでしか味わえない濃密なストーリーに、いつまでも陶酔していたくなる。
来年アメリカで続編がドラマ配信されるんだって!
楽しみすぎる~!
今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。