引用元:映画com.
あらすじ
田舎町の一軒家で若い夫婦が幸せに暮らしてたが、ある日夫が交通事故に遭い、突然の死を迎える。病院で夫の死体を確認した妻は、遺体にシーツを被せて病院をあとにする。しかし、死んだはずの夫はシーツを被った状態の幽霊となり、妻が待つ自宅へと戻ってきてしまう。
引用元:映画.com
作り込まれた世界観に酔う
引用元:映画com.
ときどきホラー映画の中に、やたら泣けてしまう作品がある。
『シックス・センス』や『アザーズ』『ダークウォーター』がその1つだ。
霊は憎悪や哀しみに満ちている。ラストに辿り着く彼らの答えは観念的で、途方に暮れてしまうものが多い。それでも染みわたる感動を静かに感じる。
『ア・ゴースト・ストーリー』も、観終えたあと、泣いている自分がいた。
何とも感慨深いホラーファンタジーだ。
シーツを被ったゴーストは奇妙だが、叙情的な風景に溶け込んでいる。
生きている者と死んだ者の越えられない境界線。そこに立ち込める虚無感。
傍観するゴーストと一緒に、観る者は悠久の時間を旅する。
その見事に作り込まれたアートな世界に圧倒されつつ、最後は救われるものを感じた。
シーツを被ったゴースト像
引用元:映画com.
シーツを被ったゴーストのタイトル画像は、ひと目で好奇心をそそられる。
可愛くて、奇妙で、少し不気味。
子どもが幽霊ごっこをしている1シーンを想像し、コメディかと思った。
こんな大胆な形でゴーストを表現したことに感服する。
知るところによれば、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』のカオナシからヒントを得たらしい。
カオナシと言えば、数あるキャラクターが登場する中、ひと際悲壮感を漂わせていたのを思い出す。
表情が一定で言葉を発せず、儚げで、いつの間にか消えてしまったオバケ。
確かに本作のシーツゴーストとよく似ている。
突如として怒り狂い、観る者を置き去りにする変貌ぶりまで共通している。
これは1つの映像詩だ。
読み解けないものを映画に送り込むことで、それぞれのパーソナルな思想が交差していく。ゆっくり丁寧に、込められた想いを巡らすのだ。
こんな哀愁漂う仕掛けがうまい。
そしていつのまにかカオナシ同様、シーツゴーストに不思議な魅力を感じていく自分に驚く。
改めて考えさせられる死生観
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シーツゴーストは病院から妻のいる家に戻り、彼女をじっと見守る。
夫の死で自暴自棄となる彼女にアクションを起こすことも、メッセージを送ることもない。ただ、そこに佇んでいる。
家を立ち去る妻を、追うこともなかった。
シーツゴーストが思い出の根付く場所に留まったことに、情緒的な深さを感じる。
生きている人間は、流れゆく時間を刹那的に生きている。
そう、私たち生きている人間は「時間」の中に閉じ込められているのだと思う。
しかしゴーストにとって時間は意味をなさず、生前の想いの中に存在している。
やがて家に新しい住民が現われては去り、時空を超えた世界が映し出される。
死んだらどうなるか、答えを知る者はいない。
私の中では、人は死ぬと『インター・ステラー』で描かれた五次元の世界に放り込まれるのではないかと思っているので、このストーリーの展開に妙なカタルシスを感じた。
とてもマニアックながらも秀逸で、いつまでも心に残り続ける1本となった。
今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。
A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー(字幕版)