引用元:映画com.より
第76回ベネチア国際映画祭でユニセフ賞を受賞した、チェコ出身のバーツラフ・マルホウル監督の作品です。
日本では2020年に劇場公開されました。R-15指定されています。
あらすじ
東欧のどこか。ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である1人暮らしの叔母が病死して行き場を失い、たった1人で旅に出ることに。行く先々で彼を異物とみなす人間たちからひどい仕打ちを受けながらも、なんとか生き延びようと必死でもがき続けるが……。
引用元:映画com.
衝撃すぎて観てることに罪悪を感じてしまう映画
またもすごい映画を観てしてしまった…!
予告で「驚異の映画体験」とキャッチフレーズが付いているのが納得です。何しろトロント国際映画祭では、途中退場者が続出したほどの問題作だというのですから。
モノクロのポスターも異様さが表れています。
首まで土に埋もれてカラスと睨み合う少年。その1カットだけでもセンセーショナルな予感が漂ってきます。
題材はホロコーストとされていますが、これまで観てきたようなホロコースト作品とは違っていました。
一緒に暮らしていたおばさんが突然死することによって、少年の救いなき旅が始まります。
居場所を求めるも、行く先々でいじめや暴力、差別や性虐待の餌食になります。ユダヤ人だからという戒めで受けている場面は少なく、むしろ出会う大人たちがそれぞれ問題を抱えているので、少年が巻き込まれるような形で悲劇が起こります。
何という暗澹たる世界。
いったい何を観せられているのか、途中何度か我に返りました。
観ているだけで罪悪を感じてしまう、そんな衝撃さです。
地獄を見た少年の闇
引用元:映画com.より
この映画を観ていて猛烈な痛々しさを感じるのは、主人公が幼い少年だからというのもあるかも知れません。
本来なら庇護されるべく少年が、秩序のない大人社会に放り出され、禁断の世界に踏み込んでしまう悲運。
人間の醜さが次々と露呈され、残酷性を突き付けていきます。
特に浮気相手に逆上した男が目玉をくり抜くシーンや、女たちが破廉恥女をリンチするシーンは堪えられないものがありました。
(恐らくこの辺りで途中退場した人も多いのではないでしょうか。)
不幸にも現場に居合わせた少年は、ただ恐怖と絶望に耐えしのんでいます。
この幼い少年が「地獄を耐える」を続けていくうちに、心が変化していくのを見逃せません。
どこにも居場所がなく、自分が排他的な人間であると心得た彼は、彼なりの生きる術を身に付けていきます。
自分を大切に思う誰かがいなければ、生きることは酷だ。
どんな無垢さがあっても、襲い続ける不幸や悲しみが心に闇を落としていくのは否めないんじゃないかと、そう思いました。
映画で味わう驚異の体験とは
この映画は、予想以上にこの世におけるあらゆる闇を炙り出していて、陰惨とした気持ちにさせられます。
ちょっと興味があるからとうっかり覗いてしまったら、後悔する人もいるかも知れません。
ある程度の覚悟を持って観るべく映画のような気がします。
そしてキャッチフレーズになった「驚異の映画体験」は、確かに経験します。
作品に対する嫌悪感や屈辱感、好奇心への葛藤、皮肉な達観視点、そして最後に少年の心の声を見たときに味わう開放感。
様々な感情が錯綜します。
それは、3時間見続けた者だけが味わえる特別な体験です。
人間の恐ろしい本質が描かれていると話題ですが、私は人間の根底にある優しさを感じ取れる瞬間がいくつか垣間見れ、救われるものを感じてもいました。
彼が生き延びられたのは、辿りゆく先に微かな光が灯っていた場所もあり、つかの間の安らぎが確かに存在していました。
少年もまた、どこかで人を信じる心を失っていなかったように思います。
だから少年は歩く。
救いを求めて、歩き続ける。
モノクロ映像が重くも美しく、見応えのある傑作です。
今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。