是枝裕和監督の挑戦的な日本風フランス映画『真実』
フランスの国民的大女優ファビエンヌが自伝本「真実」を出版し、それを祝うためという理由で、アメリカに暮らす脚本家の娘リュミールが、夫でテレビ俳優のハンクや娘のシャルロットを連れて母のもとを訪れる。早速、母の自伝を読んだリュミールだったが、そこにはありもしないエピソードが書かれており、憤慨した彼女は母を問いただすが、ファビエンヌは意に介さない。しかし、その自伝をきっかけに、母と娘の間に隠されていた愛憎渦巻く真実が次第に明らかになっていく。
引用元:映画com.
是枝監督の挑戦的な映画作り
『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督。
今度はパリを舞台にカトリーヌ・ドヌーブ、ジュリエット・ビノシュ、そしてイーサン・ホークを起用してフランス映画を撮りました。
カトリーヌ・ドヌーブ、さらにはジュリエット・ビノシュというフランスの大女優を共演させただけでも凄いことなのに、フランス人の、それも芸能一家の家族問題を見つめた脚本を是枝監督自身が書いたというから驚きです。
聞けば「現地ではこういうことはない」「こういう言い回しはない」などの指摘を受けて何度も修正が加えられたようです。
監督はフランス文化に精通しているわけでも、フランス語が流暢に話せるわけでもありません。
フランス人の製作スタッフが多く参加したとしても、馴染みのない国で完全オリジナルドラマを撮るということは、日本人としても映画人としても、かなり挑戦的な映画作りだったことが伺えます。
そしてカトリーヌ・ドヌーブの役柄にも注目したいところです。
引退間近のプライド高い大女優役を演じているのですが、
「日常なんてどうだっていい」
とアンニュイな表情で呟くその姿は、ドヌーブの実像のイメージと重なって見え、失礼ながら彼女のために書かれた脚本ではないかと疑ってしまいました。
本人は役と切り離していたようですが、観る側からしたら是枝監督の勇気に絶賛したくなる配役です。
本作はセザール賞外国映画賞を獲得しています。
やっぱり素敵なイーサン・ホーク
フランスの大女優の母と脚本家の娘、そこに娘婿として登場するハンク(イーサン・ホーク)の存在が絶品です。
ハンクはフランス語が話せないため、しばし会話から置き去りにされます。
売れない俳優であったり、1人だけアメリカ人であったりするので、立場的にも肩身が狭いのですが、そこに可笑しさと哀れさが織り交ざっています。
食卓では、ドヌーブ演じるファビエンヌに思いっきりディスられてしまうのですが、作中、最もユーモアに包まれたシーンでした。
こんな役柄を演じるイーサン・ホークに、ファンとしては思わずニヤリとしてしまいます。
『ビフォア・サンセット』でも『6才のボクが、大人になるまで。』でも、やたら女性陣に怒鳴られ絶句していた姿を思い出します。
ソフトな雰囲気が情けない役を似合わせてしまっているのかも知れません。
しかし本作では、これまでないほど子煩悩で理想的な父親役を演じているので、ファンはまたも惚れ直してしまうかも知れません。
今回イーサン・ホークの子供との触れ合いシーンは彼の自然体の姿で撮ったらしく、それもまた素顔を見たようで嬉しくなりました。
フランス映画に入り込む日本テイスト
フランス映画と言えば、作家性が強く押し出た芸術的作品が多いです。
難解で退屈な映画をイメージする人も多いのではないでしょうか。
映像は風景やファッション、人物たちが洗練されていて上質な雰囲気が漂います。
交わされる会話は深堀したくなるほど詩的で意味深です。
ゆったりとしたカメラの映し方や間合いは、日本映画と似たものを感じます。しかし日本映画は寄り添いどころを丁寧に見せていきますが、フランス映画は感性を試すようにストーリーが運んでいくので、しばし観客を置き去りにしがちです。
本作は、やはり日本的なものを感じました。
とても丁寧に丁寧に、登場人物の心の変化を追いかけています。
退屈さや、女同士の辛辣さはフランス的なものを感じましたが、とても分かりやすい「家族再生物語」になっていました。
そしてフランス映画の鑑賞後はオシャレな映画を観たなーという充足感を味わえますが、それは本作も同じでした。
フランス映画を日本風に味付けした雰囲気が心地良く、とても気分が舞い上がってきます。
是枝監督の新たな世界観を堪能したい1本です。
ハロウィンはティム・バートン映画がおすすめ!子供と楽しむ5作品
10月といったらハロウィン!
おうち時間でハロウィンをもっと楽しみたいとき、映画は何より気分を盛り上げてくれますよね。
ハロウィン映画はいろいろありますが、中でも私が大好きなティム・バートン監督はハロウィン向けな作品を多く送り出しています。
ティム・バートンと言えば、独創的でちょっと不気味ですが、夢仕掛けのストーリーは未知なるファンタジー世界へと誘ってくれます。
今回は、そんなティム・バートン作品の中から、子供と一緒に楽しめるハロウィンに打ってつけな映画5本をご紹介します。
ぜひおうちハロウィンを楽しんでみて下さい。
ナイトメアー・ビフォア・クリスマス
1993年製作/76分/アメリカ
<あらすじ>
ハロウィンタウンの人気者ジャックが、ツリーの扉を開けた瞬間、クリスマスカラーの色鮮やかな町を目の当たりにします。そこは楽しさと喜びで溢れたクリスマスタウンでした。見たことのない世界にすっかり魅せられたジャックは、ハロウィン風クリスマスを演出しようと奮闘しますが…。
<見どころ>
大人から子供まで楽しめるハロウィンとクリスマスを掛け合わせた本作は、今から28年前に製作されました。
当時の最新技術を駆使して作られたストップモーションアニメですが、今観ると手作り感が味わい深くノスタルジックな雰囲気が漂っています。
小さな子供が見たら「ちょっと怖い」と薄気味悪さも感じるかも知れません。そもそもハロウィンタウンはスリル大好きな奇人が集っているので、異様な空気に満ちています。
それでもこの映画が陽気なのは、ジャックの「みんなを喜ばせたい!」という無邪気な探求心がモチーフになっているところでしょう。
手足がひょろっと長く、タキシードを着た骸骨顔のジャックは、表情や感情が豊かで生き生きとした姿で駆け回ります。
最悪の事態を招いてしまうジャックですが、彼の胸の内が歌に込められ、全体的にハートフルな仕上がりになっています。
どこか退廃的でありながらも、楽しく奇妙なストーリーは、今でも多くのファンの間で語り継がれる名作です。
ハロウィンの特別な夜に、楽しみたい1本です。
ディズニーランドのホーンテッドマンションでジャックを知っていたから、怖くなかったよ
チャーリーとチョコレート工場
2005年製作/115分/アメリカ
<あらすじ>
チョコレート工場に招待された幸運な5人の子供たち。扉を開けた瞬間、チョコレートの芳醇な香りに満ちたカラフルで幻想的な空間が待ち受けていました。
案内人は工場長ウィリー・ウォンカ(ジョニー・デップ)。子供たちをにこやかに歓迎しながらもときどき毒づいたりし、見た目も中身も一風変わっています。実はウィリーが密かな計画を企てていたことに誰も知る由もありませんでした…。
<見どころ>
ストーリーの要となるのが工場長ウィリーです。
彼の言動がとにかくおかしく、良い人なのか悪い人なのか、観ていると微妙すぎて戸惑うかも知れません。
そんなウィリーは子供時代、ハロウィンでチョコレートに魅せられたのをきっかけに大きなチョコレート工場を作ることになったのです。しかしふっと挟み込まれる彼の子供時代の思い出が苦々しく、家族に対してトラウマを抱えているのが分かります。
一方、招待された子供たちは主人公のチャーリー以外は皆したたかで、大人を見下しています。その傲慢さに見合う罰が、ウンパ・ルンパの歌と共に大きな見せ場となっていきます。ある意味、ティム・バートン監督が子供たちへ警告を鳴らしているとも言えるべき展開かも知れません。
チョコレート工場の内部では、大きなチョコレート川のある庭園があります。草や植物、モニュメント等はすべてチョコレートで出来ているという設定になっていますが、何と実際もパティシェがチョコレートで作ったというから驚きです。
ナッツを仕分けるリスも、半年調教した本物のリスです。
随所にティム・バートン監督がこだわった世界観を存分に堪能することができます。
ハロウィンの季節に、心躍らせながら親子で楽しみたい1本です。
主人公のチャーリーが家族思いで感動したよ
コープスブライド
2005年製作/77分/イギリス
<あらすじ>
気弱だけど優しい主人公ビクターが結婚前夜の森の中、ひょんなことからコープスブライド(死体の花嫁)、エミリーと出会います。プロポーズされたと勘違いしたエミリーは、ビクターを死者の世界に連れていき、結婚式を挙げようとしますが…。
<見どころ>
死者の世界は最初こそ不気味で、オカルト的な印象を持つかもしれません。
骨がポキポキ折れたり、目玉が飛び出たり、体が真っ二つに分かれたりと視覚的に遊び放題で、ティム・バートン監督らしい奇抜さに溢れかえっています。
陰鬱なイメージの死者の世界ですが、そこの死人たちは晴れやかに歌って暮らし、何もかも吹っ切れたように満たされていました。
色見のない映像が一転、カラフルで可愛らしい世界が広がります。
それと対比するように、生者の人々は金や名誉に執着し、おぞましい顔を覗かせて暮らしています。
そのせいか、生者と死者の間を行き来する主人公やエミリーのピュアさが引き立ち、とびっきり魅力的なキャラクターへと映り込みます。
全体的にストーリーはおどろおどろしさが滲み出ていますが、ミュージカル仕立てなので子供と一緒に楽します。
異形なものへの愛に寄り添う、ティム・バートン監督ならではの心温まるラストが見逃せません。
怖いシーンもあったけど、クモがお裁縫してくれるところが面白かったよ。
ジョニー・デップの気弱な主人公を演じた声の出演も見どころです。
シザーハンズ
1990年製作/105分/アメリカ
<あらすじ>
孤独な老発明家によって作り出された人造人間のエドワード(ジョニー・デップ)。もう少しで完成というところで老発明家は急死し、両手がハサミのまま置き去りにされてしまいました。
そんな不気味な姿をしたエドワードですが、キム(ウィノナ・ライダー)と出会ったことで自分の居場所を見つけます。キムもエドワードの純粋で心優しい性格に惹かれていきますが、人造人間に嫌悪感を持つ者たちがエドワードに忍び寄り…。
<見どころ>
ティム・バートン監督とジョニー・デップという黄金コンビが誕生した記念すべき作品です。
ティム・バートンのオリジナル感あふれる映像センスが光り、ダークファンタジーならではの奇妙でメルヘンチックな世界が見物です。
カラフルな家並み、雪の舞い散る幻想観、エドワードが庭木の剪定や氷の像を完成させたときに見る風景の明るさや美しさに、思わずうっとりします。
特殊メイクを施したエドワードを演じるジョニー・デップは、物憂げな表情やぎこちない動きで人造人間の悲壮感を漂わせています。
今や大スターとなったジョニーデップですが、当時の垢ぬけない純朴さがエドワードと重なり、作品をより清らかなものに仕上げています。
儚くも美しいラブストーリーは、子供心にも大きな感動を与えてくれます。
エドワードは、ハロウィンで仮装されたりもしますね。
アリス・イン・ワンダーランド
2010年製作/109分/アメリカ
<あらすじ>
「不思議の国のアリス」から13年後のストーリーで、19歳になったアリスが再びワンダーランドに迷い込みます。今起きていることは子供の時から見続けている悪い夢だと信じ、
赤の女王と決闘に挑むことになりますが…。
<見どころ>
大人になったアリスが主人公なので、子供だった頃の好奇心旺盛さや冒険心がありません。
自分がワンダーランドの救世主になることを拒むアリスの等身大な姿は、これまでと違った親近感を持てます。
かつて「不思議な国のアリス」で登場した消える猫や白ウサギ、青虫やマッドハッター(ジョニー・デップ)達も健在で、ストーリーを知っている人はワクワクすることでしょう。
何より面白いのが、赤の女王(ヘレナ・ボナム・カーター)です。
頭でっかちで奇抜な風貌や、悪巧みな表情、滑稽な動作はヘンテコ感たっぷり。暴君ぶりを発揮していますが、どこか哀れさを感じてしまうところはティム・バートンらしい味付けを滲ませています。
そして目を見張るほど色鮮やかなワンダーランドの世界。
この可愛く幻想的なキラキラ感は、大人も子供も魅惑的で高揚感に包まれていきます。
赤と白の女王の決戦も壮大感あふれています。
ダークさは控えめにしてあるので、これまでティム・バートン作品に「怖さ」を感じてしまう人も安心して楽しめる作品です。
ハロウィンの夜に、ファンタジックな世界にぜひ酔い痴れてみて下さい。
マッドハッターのダンスが面白かったよ。
こちらもおススメ!
ティムバートン作品以外にも家族で楽しめるハロウィンおススメ映画があります!
こちらでは映画を観ながら英語教育を取り入れているTwinklさんの記事です。
多くのジャンルの中から11作品をご紹介しているので、ぜひお子さんと一緒に楽しいハロウィン映画を見つけてみて下さい♪
https://www.twinkl.jp/blog/halloween-theme-movie-for-families-infographic
タイムトラベル映画10選≪洋画編≫
もし過去に戻れたら…、もし未来を覗けたら…。
そんな誰もが夢見るタイムトラベルのある世界に、映画は誘ってくれます。
複雑に絡み合う時間は濃密なストーリーを生み出し、思わぬ展開をみせてくれるので、スリルと興奮、そして感動を大いに味わわせてくれます。
今回は映画好きの私が、本当に面白かったタイムトラベル映画10選をご紹介します。
- プリデスティネーション
- バタフライ・エフェクト
- ルーパー
- オーロラの彼方へ
- ザ・ドア 交差する世界
- デジャブ
- きみがぼくを見つけた日
- オール・ユー・ニード・イズ・キル
- ジャケット
- バック・トゥ・ザ・フューチャー
プリデスティネーション
2014年製作/97分/オーストラリア
バーテンダーに自分の数奇な人生を語り始める客。うまくいくはずだったのに、恋に破れたことで地獄に転落したと途方に暮れています。聞いていたバーテンダーは未来からきた時空警察で、過去に戻って恋敵に復讐を果たすことを提案しました。
復讐を軸にして描かれるタイムパラドックスは、陰影に富んだ世界を描き出しています。
劇中交わされる「卵が先か、鶏が先か」の言葉を深くなぞりたくなるほどストーリーは秀逸で、人の生きる宿命を何層も絡め、驚くべきラストへ失踪していきます。
バイオリン型のタイムマシンが斬新でおしゃれでした。
バタフライ・エフェクト
2004年製作/113分/アメリカ
昔の日記を読み返すと、そのときの感情が掘り起こされ、過去に戻れるという特異体質を持った主人公。恋した幼なじみを亡くしたことで、これまで歩んできた運命を書き換えようとします。幼少時代に負ったトラウマ体験を防ぐことが鍵でしたが、何度やり直しても誰かが犠牲になり、うまくいきません。
人生とは、ちょっとしたタガが外れただけで大きく狂ってしまうものだと見据えたような作品です。夢見がちな「もしも」を打ち砕きますが、主人公の優しさが滲み出る濃密なストーリーは必見です。
幸せとは誰かの不幸とつながっているのかと思いながら観ていました。
ルーパー
2012年製作/118分/アメリカ
近未来。死体証拠を残さないために、犯罪組織はタイムマシンを悪用して標的を30年前の過去に送り込み、そこでルーパーと呼ばれる暗殺集団に殺害させていました。
ルーパーに属する主人公は、あるとき標的が30年後の自分が送り込まれたことを知りますが、迷いなく任務を遂行しようとします。
しかし未来の自分は、起きた過去を変えるために逃げ惑います。
同じ人間でありながら、現代と未来の思想は別であるという着想が面白い展開を生んでいます。
それぞれの信念を貫こうとする姿が複雑ですが、結末は語り継がれるほどの潔さを残しました。
ブルー・ウイルスが30年後の主人公を演じています。
オーロラの彼方へ
2000年製作/117分/アメリカ
父親を亡くした息子が無線機で交信した相手は、何と30年前に亡くなった父親だったという時空を超えた感動ドラマが見物です。
消防活動で命を落としたことを本人に伝え、何とか父親を救おう画策しますが、事態は思いもよらぬ波乱を呼び起してしまいます。
助けたくても手の出せない距離で、互いへのメッセージを送り続ける親子の絆に胸が熱くなってきます。
二転三転とするクライマックスはハラハラさせられますが、さわやかさに満たされます。
Yahoo!の株を買えというメッセージがユニークでした。
ザ・ドア 交差する世界
2009年製作/101分/ドイツ
娘を事故死で亡くした主人公は、己の不甲斐なさに悔む人生を送っていました。しかし不自然に佇んだドアを開けると、娘が事故死する直前の過去に戻ることができ、救出に成功します。
鉢合わせになった過去の自分を思わず殺してしまいますが、そこで過去の時間に留まることを決意する主人公。
「あのときに戻りたい」という願望を叶えたドラマが独創的で、面白い構成になっています。
失った時間を取り返そうとする主人公の葛藤に痛ましさもあります。
終盤、タイムトラベルの存在を知った者たちが狂信的な行動を起こしていき、ドイツ映画らしい奇妙なサスペンステイストへと変えていきます。
主演のマッツ・ミケルセンの抑えた演技がとてもクールです!
デジャブ
2006年製作/127分/アメリカ
爆破事件で犠牲になって運ばれた女性の遺体。捜査官の主人公は彼女を見て、不思議なデジャブを感じます。
一方、政府の抱える秘密組織では過去を遡れる監視システムが存在していました。事件の首謀者を捕まえるためにカメラの時間を巻き戻してくうち、被害女性を救おうと主人公が立ち上がります。
この映画がとにかく斬新で興味深いのは、「死んでしまった女性に恋した男」。
男が運命に逆らおうとしたときに発生したパラレルワールドが、息をのむほどの緊張感を与えています。
トニー・スコット監督とデンゼル・ワシントンの名コンビが仕掛ける映画は、常に一級品ですね。
きみがぼくを見つけた日
2009年製作/110分/アメリカ
自分の意思とは関係なく過去・未来へトリップしてしまう主人公と、それに翻弄される女性の苦悩に満ちた人生を描いています。
いつ、どこの場所へいくのか分からないので、毎回主人公は命がけで時空を超えなければいけません。
2人の再会は毎回奇跡のように繰り返されますが、だんだんと一緒にいたくても居られないもどかしさが積み上がっていきます。
タイトルに込められたメッセージが胸に響き、感動が広がっていきます。
珠玉のラブストーリーは、生涯忘れられない1本になるはずです。
オール・ユー・ニード・イズ・キル
2014年製作/113分/アメリカ
日本の小説「All You Need Is Kill」を映画化したトム・クルーズの主演映画です。
兵士経験のない広告マンが、ひょんなことから最前線の戦場に繰り出されます。冒頭20分であえなく主人公は討ち死しますが、そこで時間はリセット。目を覚ました主人公は何度もループして戦前へ向かい続けます。無限ループを断ち切るには激戦を生き残るしかありませんでした。
そんなゲームの世界に入り込んだような設定を観ていると、鑑賞者はプレイヤーの気分になっていくでしょう。弱腰だった主人公が少しずつヒーロー化していく姿をユーモラスに描き、怒涛のSFアクションを楽しませてくれます。
毎回死ぬシーンが衝撃的でした。
ジャケット
2005年製作/103分/アメリカ
1992年に生きる主人公は、戦争で負った治療目的のために精神病院に入院させられます。そこでは患者を遺体安置所に入れての荒治療が行われていましたが、何故か2007年にタイムワープしてしまうという不思議な空間になっていました。
15年後の世界で出会ったシングルマザーと恋に落ちますが、実は未来ではすでに自分が死んでいることを知ります。何故自分は死んだのか、彼女の運命はどうなるのかをミステリー調で盛り立てていきます。
胸を打たれる結末は、見逃せません。
主演のエイドリアン・ブロディの何とも言えぬ表情が印象的でした。
バック・トゥ・ザ・フューチャー
1985年製作/116分/PG12/アメリカ
すでに多くの人が鑑賞済みですが、タイムトラベル映画と言えば、やっぱりこの1本!
過去に戻ってしまったことで、塗りかえられそうな運命を必死で修正しようとする主人公。
その可笑しくスリリングな奮闘劇は、誰もが釘付けになりました。
60年代に生きる人々の素朴さと、ポップな80年代に生きる主人公のズレが最高にユーモラスです。タイムトラベルならではの変わりゆく運命の危うさもスリル満点。
未来へつながる時間が、ダンスパーティーで集結されていく流れが爽快です。
SF映画の王道中の王道映画は、世代を超えて愛され続ける名作です。
アン・ハサウェイの怪演ぶりが楽しめる映画『魔女がいっぱい』
あらすじ
1960年代、とある豪華ホテルに現れた、おしゃれで上品な美女。しかし、彼女の正体は誰よりも危ない邪悪な大魔女(グランド・ウィッチ)だった。この世に魔女は実在し、世界中に潜んでいる。いつまでも若く、おしゃれが大好きな魔女たちは、人間のふりをして普通の暮らしを送りながら、時々こっそりと人間に邪悪な魔法をかけている。そんな魔女たちの頂点に立つ大魔女が、魔女たちを集め、ある計画をもくろんでいた。そして、ひとりの少年が偶然魔女の集会に紛れ込み、その計画を知ってしまうが……。
引用元:映画com.
アン・ハサウェイの怪演が見事
この映画の見どころは、アン・ハサウェイの見事な怪演ぶり!もうそれに尽きる。
好みはあるにせよ、二次元の世界に出てくるようなルックスは、同性でも見惚れてしまうほどキュートで魅力的。黙っていれば、愛くるしいお人形さんだ。
そんなアン・ハサウェイを始めとするハリウッド女優たちは、自分のイメージを壊すことを恐れたりせず、役になりきったりする。
たとえみすぼらしい役や汚れ役だとしても、憑依したかのような見事な演じっぷりで、映画を何倍も面白くしてくれるのだ。
そして本作のアン・ハサウェイ。
子供たちをネズミにしてしまうという恐ろしい大魔女役を完璧に仕上げている。
特殊メイクを施し、クセのある巻き舌(ロシア語訛りを誇張するため)で喋り倒す姿は、何ともエキセントリックで圧倒的な存在感を放っている。
そこに加わる大袈裟な身振り手振りや、激しく変わる表情が実にコミカルで、これだけでもうお腹いっぱいになるほど作品の醍醐味を味わい尽くさせてくれる。
ゼメキス監督の安定の良質作品
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を世に送り出したロバート・ゼメキス監督も、御年69歳(2021年現在)。80年代からスピルバーグと肩を並べ、安定した娯楽大作を生み出してきた。
ときどき小難しい映画を撮ることもあるが、スピルバーグと違って重厚すぎることもない。どれもハートフルを織り交ぜ、鑑賞後に心地よい余韻を残してくれる。
そんな子供から大人まで楽しめる作品の良質さは、今回も保証付きだ。
原作は、『チャーリーとチョコレート工場』で知られるロアルド・ダールだったり、製作と脚本が『シェイプ・オブ・ウォーター』を監督したギレルモ・デル・トロだったりするので、ダークファンタジー色も強い。
世界中の子供をネズミにしようと企てる魔女の異常な執念や、挟み込まれるブラックユーモア、そしてアクの強いキャラクターたちを観ていると、昔観た『永遠に美しく』を思い出す。あの美しさに取り憑かれた女たちの土壇場劇と似たものを感じて、懐かしくなる。
そして、絵面の強烈さも健在だ。
ゼメキス作品と言えば、ありったけの映像技術を駆使し驚異的な世界を表現する。
今回も魔女たちに仕掛ける罠や、ネズミから見た世界を楽しく奇妙に作り込み、ゼメキス作品の真骨頂が発揮されている。
意外なラストで感じたもの
※ここからネタバレ含みます。
おばあちゃんと孫のほのぼのとした関係が心温まる。
物語は主人公の少年の両親の死から始まり、少しショッキングだ。
しかし孫の面倒をみることになったおばあちゃんは、孫を立ち直らせようと得意の料理やダンスを披露し、少しずつ心を癒していく。
傷付いた子供にどう寄り添うか、そんなホームドラマチックな展開もひそかな見どころとなっている。
2人の愛情深い信頼関係は、魔女が出現するとさらに強まり、予期していなかった感動に思わずウルッとさせられる。
辿り着く結末をハッピーエンドとしてとらえるのは、少し難しいかも知れない。
だけど、幸せの定義は人によって違うもの。
主人公が自分の人生を英雄的に語り継いでいる、私はそこに注目したいと思った。
映画『サウルの息子』センセーショナルなアカデミー賞受賞作品
アカデミー国際長編映画賞第88回受賞作品。
第68回カンヌ国際映画祭ではグランプリを、第73回ゴールデングローブ賞では外国語映画賞を受賞。
2015年製作/107分/G/ハンガリー
あらすじ
1944年10月、アウシュビッツ=ビルケナウ収容所。ナチスにより、同胞であるユダヤ人の死体処理を行う特殊部隊ゾンダーコマンドに選抜されたハンガリー系ユダヤ人のサウル。ある日、ガス室で生き残った息子と思しき少年を発見したものの、少年はすぐにナチスによって処刑されてしまう。サウルは少年の遺体をなんとかして手厚く葬ろうとするが……。
引用:映画.com
センセーショナルな受賞作品
映画好きの私は、とりあえずアカデミー賞とカンヌ国際映画祭で評価された作品は観ておきたいというポリシーがある(未鑑賞の作品もあり)。
その中でも「アカデミー賞国際長編映画賞」(旧:アカデミー賞外国映画賞)は、わりと私好みな作品が多く、アカデミー賞作品より注目していたりする。
そして、2016年の受賞作品を鑑賞。
あらすじでイメージした通り、やはりセンセーショナルな内容だった。
時に映画は、心をえぐるような歴史問題を紐解き、人間の狂気を浮き彫りにすることがある。
特に人類最大の悲劇を描いたホロコーストは、人の絶望や残酷性を突き付けてくるため、心して観なければならない題材だ。
そして本作。
私なりに数多くのホロコースト作品を観てきたつもりだが、あまりの凄まじさに何度も息をのんでしまった。
人によっては、観たことを後悔するかもしれない。
何故なら、アウシュヴィッツ強制収容所の最も恐ろしい現場を描き出しているからだ。
それでも多くの映画賞に輝き、高い評価を得た。
観た人の心に強烈な想いを走らせのは、間違いない。
サウルの見る風景
主人公のサウルはゾンダーコマンドの1人だ。
ゾンダーコマンドとは、ナチス親衛隊によって強制収容所にいるユダヤ人を集めた労務部隊のことをいう。
部隊は、ガス室などで殺されたユダヤ人の死体処理を強制される。
自分も死体の山の一部となることを恐れながらも、ゾンダーコマンドに任命された者は、他のユダヤ人より少し長く生きることができる。
おおよそ3か月~1年。
ナチスの気まぐれな指令で期間が異なるが、その後、容赦なく抹殺される。
そんなゾンダーコマンドとして働くサウルに、カメラはピッタリ寄り付いて追っていく。
背景をクローズアップすることはない。サウルの表情や後ろ姿で、「何が起きているか」想像を掻き立たせるように見せていく。
そのぼんやり霞められた映像手法は、サウルの虚ろな瞳から見る風景のようにも見える。
映画が最後に描いたもの
※ここからネタバレ含みます。
「息子をきちんと埋葬したい」
ガス室で犠牲になったユダヤの少年を見たとき、サウルの心が動いた。
ナチスの残虐行為で、地獄絵図のような光景を毎日目の当たりにしてきたサウルは、すでに正気を失っていたのかも知れない。
あの手この手で収容所からの脱出を計ろうとするが、どれも無謀すぎて、まるで取り憑かれた人間のようにも見える。
実は少年が本当の息子なのか、分からない。
しかしそんなことはどうでも良かった。
埋葬することが使命であり、彼の見つけた小さな救いだったのだろう。
一片の迷いもなく突き進むサウル。
その姿は、死と恐怖に屈しない気高さに溢れたものを感じる。
重々しく陰惨として病みそうになる作品だが、最後のサウルの微笑みが目に焼き付いて離れない。
大どんでん返し映画10選≪洋画編≫
1度観ただけで終わりにするなんてもったいない!
2度目からが面白くなる、大どんでん返し映画。
騙されたときのあの何とも言えない爽快感は、病み付きになりますよね。
今回は映画好きの私が驚きと感動に包まれた「大どんでん返し映画10選」をご紹介します。
- シャッター・アイランド
- グランド・イリュージョン 見破られたトリック
- シックス・センス
- ピエロがお前を嘲笑う
- ファイト・クラブ
- 鑑定士と顔のない依頼人
- ユージュアル・サスペクツ
- メメント
- アーカイヴ
- プレステージ
シャッター・アイランド
2010年製作/138分/PG12/アメリカ
マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオ主演による4作目は、緻密に練り上げられたストーリーが見事なミステリーサスペンスです。
海で囲まれたシャッターアイランド(孤島)にある精神病院。脱走した患者の行方を追うためにやってきた保安官2人が、島の謎に迫っていきます。苦悩する患者たちの姿を見て何かが仕込まれていることに気付き、不信感を募らせます。
しかし陰謀を見破ったとき、受け入れがたい事実が待ち受けていました。後半に向かって深まる謎が、緊迫感をあふれさせています。
驚き度★★★★
最後の主人公の言葉に注目してみてください。
グランド・イリュージョン 見破られたトリック
2016年製作/130分/G/アメリカ
4人のマジシャンが集結し、冒頭からド派手なイリュージョンの世界に心躍らせてくれます。ショーで繰り広げられる大掛かりなトリックがとにかく圧巻で、驚嘆の嵐に包まれていくでしょう。
犯罪スレスレの行き過ぎた演出のせいでマジシャンたちは指名手配されてしまいますが、彼らの真の目的は大手企業の陰謀を暴くことでした。
最後のトリックを見破ったとき、ゾクゾクするほど爽快感を味わえます。
怪しいと目星をつけていたあの人ではなく、意外な人物が浮上しますよ。
驚き度★★★★
シックス・センス
1999年製作/107分/アメリカ
M・ナイト・シャラマン監督を一躍有名にさせた作品。
ホラーにジャンル分けされますが、泣ける名作としても評価を得ました。
幽霊が見えてしまう少年は自分の特殊能力に脅えていましたが、小児精神科医との対話によって心を解き放していきます。
ホラーなので突如として出現する幽霊たちに驚かされますが、彼らの哀しい物語に注目すると、ストーリーの本質が見えてくるでしょう。
ラストの衝撃は、切なさで溢れかえります。
驚き度★★★★★
実は観返すと、叙述トリックの嵐なんですよね。
ピエロがお前を嘲笑う
2014年製作/106分/PG12/ドイツ
ハッカー集団「CLAY」のメンバーに誘われた主人公。有名になるために金融業界やポルノサイトをハッキングし、世間を震撼させます。やがてハッカー集団の頂点にある「MRX」が近付いてきて、ハッカー集団同士のせめぎ合いへと発展し、殺人事件まで起きてしまいます。
サイバースリラーならではの凝った空間表現の映像を楽しみながら、真実がどこに隠されているか目が離せません。
ドイツで作られた二転三転するオチに、奇妙な快感を覚えます。
驚き度★★★★
「100%見破れない!」というキャッチフレーズがピッタリでした。
ファイト・クラブ
1999年製作/139分/PG12/アメリカ
満たされない日々を送っていた主人公は、危険な男と出会ったことで、壮絶な暴力の世界へと誘われていきます。殴り合うたびに「生への実感」を味わうと、これまで抑えられていた感情が爆発。やがて共鳴する者たちが集まり、『ファイト・クラブ』を結成します。過激化した仲間たちはテロリズムへと走り、街を混沌とさせます。
鮮血激しい暴力シーンが強烈ですが、不安な社会へのメッセージも隠されています。
危険な男を演じるのがブラッド・ピットというのも、映画のオチを知ったとき最も納得するかも知れません。
驚き度★★★★
当時、サブリミナル効果も話題になりました。
鑑定士と顔のない依頼人
2013年製作/131分/PG12/イタリア
『ニュー・シネマ・パラダイス』の名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督によるミステリーは、人の深層心理をうまく付いた傑作です。
両親の資産を受け継いだ令嬢の家に、美術品鑑定士として訪れた主人公。彼女の強い要望で依頼を引き受けたというのに、「人と会うのが怖い」という理由で一向に姿を現わそうとしません。そんな謎めいた彼女の神秘性に興味を持ったとき、男の中に不思議な感情が目覚めていきます。
エンディングは、悲喜こもごもとした人生を見つめさ、感傷的な余韻を残します。
驚き度★★★
ユージュアル・サスペクツ
1995年製作/105分/アメリカ
これなくして大どんでん返し映画を語れない、まさに映画史に名を刻んだサスペンスの一級品です。まだ観ていない人が羨ましくなるほど、映画の神髄をとことん味わわせてくれます。
ストーリーは、密輸船爆破襲撃事件で生き残った主人公が、尋問室でこれまでの経緯を回想しながら事件の真相に迫っていきます。
伝説の悪党カイザー・ソゼの命令によって5人の前科者が集められ、宝石強奪を企てます。しかしマフィアとの激しい銃撃戦で、事態は思わぬ大惨事となります。
誰もが恐れるカイザー・ソゼとは何者なのか。
ラストはゾクゾクとした驚きと感動を覚えますよ。
驚き度★★★★★
メメント
2000年製作/113分/アメリカ
クリストファー・ノーラン監督の衝撃的な出世作。予想不可能で大胆なストーリー構成は、謎だらけで誰もが引き込まれます。
妻殺しの犯人捜しをする主人公は、10分しか記憶できない前向性健忘症です。
ストーリーは主人公のその曖昧な記憶をたぐり寄せていくので、過去・現在が入り混じります。真実が見えそうになってもリセットされてしまう映像。観ている方は、主人公の記憶探しの疑似体験をしているような感覚になります。
何度観てもまた観たくなる、巧妙な仕掛けが圧巻です。
驚き度★★★★★
過去記事のレビューです。↓
アーカイヴ
2020年製作/109分/G/イギリス
ひっそりミニシアターで公開された作品ですが、見逃すのはもったいないほどの予想外なオチが用意されているので必見です。
人型アンドロイドを開発するために山里にある施設に籠る主人公。ひそかに事故死した妻の記憶をアンドロイドに構築し、生き返らせようとしていました。しかし旧型のロボットが嫉妬するようになり、暴走しだします。また会社のデータを違法に使用していたことで施設は閉鎖に追い込まれ、窮地を迎えます。
ラストに全てが明かされたとき、果てしない人の想いの深さを知り、喪失感にうなだれるかも知れません。
驚き度★★★★
ストーリーとはあまり関係ありませんが、舞台が日本の山梨県なのも良かったです。
プレステージ
2006年製作/130分/アメリカ
クリストファー・ノーラン監督が仕掛ける華麗なトリックが見物です。
マジックに人生を懸けた2人のマジシャン。ショーの最中に起きてしまった事故をきっかけに、互いへの異常な復讐心に支配されていきます。
どちらが真の勝者となれるのかは、瞬間移動のイリュージョンへの成功が鍵となります。やがて禁断の領域に踏み入れると、SF風な展開へと広がります。
犠牲によって掴んだものは何だったのか、最後のプレステージで明かされます。
驚き度★★★
映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』コロナ禍の今こそ観ておきたい
2016年製作/100分/G/イギリス・フランス・ベルギー合作
あらすじ
イギリス北東部ニューカッスルで大工として働くダニエル・ブレイク。心臓に病を患ったダニエルは、医者から仕事を止められ、国からの援助を受けようとしたが、複雑な制度のため満足な援助を受けることができないでいた。シングルマザーのケイティと2人の子どもの家族を助けたことから、ケイティの家族と絆を深めていくダニエル。しかし、そんなダニエルとケイティたちは、厳しい現実によって追い詰められていく。
引用元:映画com.
コロナ禍の今と重なる社会の縮図
陰鬱な映画かも知れない。
結末も釈然としない思いに駆られる。
何せイギリスの巨匠ケン・ローチ監督作品だ。これまで社会的弱者に寄り添い、現実世界の厳しさを映画で訴え続けていた。
そして今回は、国の支援を必要としているのに受けられない人たちに焦点を当てた。
心臓病で働くことを止められた主人公ダニエルと、シングルマザーのケイティ。
それぞれ失業給付金の申請をするも、時間通りに来なかったことや、「まだ働ける」と審査されたことで申請を拒まれてしまう。
何度申請しても、役人たちはマニュアル通りに対応するだけ。
また高齢のダニエルに、「書類手続きはインターネットから」と突き返す。
自国(イギリス)の福祉制度の面倒なシステムや、非人道的な役人たちの態度が、貧困に苦しむ人々をさらに追い込んでいく…。
コロナ禍の今、思いを重ねる人も多いかも知れない。
社会活動を制限され、支援を必要とする人々。そんな彼らに、今の日本はしっかりとした補償を打ち出せず置き去りにしている。
国は違えど、弱者を切り捨てる社会の縮図が見えてきて、いたたまれなくなる。
フードバンクでの一幕
恥ずかしながら、フードバンクの実態をよく知らなかった。本作を機に、その活動について興味を持つようになった。
フードバンクとは生活困窮者に、食料品や日用品を支給するボランティア団体のことだ。
(日本でも2014年頃から正式に活動しているらしいが、認知度は低い。)
イギリスはコロナ禍の影響もあり、利用者が急激に増えているらしい。しかし誰もが利用できるわけではない。医師やソーシャルワーカーの認定後、登録カードが必要となる。
映画では、このフードバンクが提供する倉庫で、強烈な場面を描く。
シングルマザーのケイティが並べられた缶詰めを見て、思わずその場で開封し口にしてしまうのだ。
空腹からくる衝動で、完全に理性を失くしていた。
我に返って泣きじゃくるケイティを観て、気丈にふるまいながらも、自分の惨めさに押しつぶされていく姿が胸を締め付けた。
ケイティの心の叫びが聞こえてくるようでした。
映画が届けたメッセージ
この映画では、ダニエルの起こす行動にメッセージが込められている。
高齢なうえに持病を抱え、生活にも余裕のないダニエル。
それでもケイティを救おうと小さな親切を重ね、支え合うことの大切さを訴えている。
今、身近で起きている悲劇に気付こう。
助けを必要としている人たちに、手を差し伸べよう。
小さな働きかけで、誰かを救えるかも知れない。
ケン・ローチ監督が引退宣言を撤回してまで打ち立てた作品が、胸に響いてくる。
実は日本では、本作を提供する株式会社バップ、有限会社ロングライドが中心になって「ダニエル・ブレイク基金」を設立した。
映画の上映権を保有する30年間の間、収益(DVDやブルーレイ、テレビ放映、配信など)の一部を貧困に苦しむ人々に寄付することとなっている。
誰もが明日の身など分からない今こそ、観ておきたい映画だと強く思った。
劇場公開中は、限定的に観客から缶詰めの寄付を募っていたようです。
映画『ガタカ』夢を共有した友情に心揺さぶられる
1997年製作/106分/アメリカ
あらすじ
遺伝子操作で生まれた“適性者”が社会を支配する近未来。自然出産で誕生したビンセントは、“不適正者”として冷遇される人生を歩んでいた。彼は幼い頃から宇宙飛行士を夢見ていたが、それは適性者のみに許される職業だった。ある日、ビンセントはDNAブローカーの仲介で、下半身不随となった元水泳選手ジェロームの適性者IDを買い取る。ジェロームに成り済まして宇宙局「ガタカ」に入社したビンセントは、努力の末についにタイタン探査船の宇宙飛行士に選ばれるが……。アンドリュー・ニコルの監督・脚本デビュー作。
引用元:映画com.
今回は1997年の少し古めの映画です。
私の好きな映画ベスト20以内に入るので、書き残したく記事にしました。
劣等感への悔しさと怒り
「できない」「無理」を両親に言われ続けてきた主人公ビンセント(イーサン・ホーク)。
当然かもしれない。
優秀な遺伝子を持つ弟に比べたら、ビンセントは病気のリスクもあれば、学力や身体能力も劣っている。
自然出産で生まれたビンセントがいくら足掻いても、遺伝子操作された弟にかなうはずがない。
小さなうちから兄弟で優劣を付けられ、どれほどの敗北感を抱えて大人になったのか想像できる。
自分より優秀な人間が近くにいれば、誰もが自身の限界を知る。
大抵の者は、選択肢の狭められた人生を宿命として受け入れると思う。
だけどビンセントは言い放った。
「僕に何ができて何ができないか、決めつけるな! 」
彼は科学の力を超えた自分の可能性を信じようとしていた。
社会的不適正者としてずっと冷遇を受けてきたことへの悔しさや怒りが、その気持ちを加速していったように見える。
夢を共有した友情
ビンセントに協力したのは、事故で下半身不随となったジェローム(ジュード・ロウ)だった。
ジェロームは宇宙飛行士として適正な遺伝子を持つ自分のIDを提供し、それを持ってビンセントはガタカ社に潜入することができた。
お互い最初こそビジネスの関係だったが、いつしか夢を共有し、なくてはならない存在へと変わっていく。
これこそ映画の最大の見どころだと思う。
正体を暴かれまいとする2人の執念は凄まじいものを感じる。
ビンセントは毎朝体毛を落とし、職場でも毛髪や皮脂が落ちないよう注意を払う。激しいトレーニングが苦しくとも、何食わぬ顔を装い、優秀な人間を演じ続ける。
一方のジェロームは、ガタカ社提出用のために、自分の血液や尿のサンプルを採取し続ける日を送る。
突然自宅訪問しに来た捜査官の前では、健康体の自分を必死で演じる。動かない下半身でリビングのソファーに自力で座ろうとする一幕は、ジェロームの気迫が溢れていた。
何者にも邪魔されまいとする2人の並々ならぬ信念が、胸を熱くさせる。
夢の果てにみるもの
※ここからネタばれ含みます。
身分詐称してまで果たそうとした「宇宙飛行士」への道。
ビンセントは果てしない宇宙に、ひたすら夢を馳せたのだろう。
心臓疾患を持っているビンセントは、宇宙から戻ってくることができないかも知れない。夢を果たすということは、身を滅ぼすことにもつながっているようで、その決意と覚悟に胸が締め付けられる。
ジェロームにとっても同じだ。
ビンセントが夢に近づくたびに、自分の存在意義を見失っていくのを感じる。
しかし2人には、決然としたものがある。
不可能への挑戦。
たとえその後に何が起きようと、突き進むことが人生の答えとしたのだと思う。
SF映画にジャンル分けされるが、まぎれもなく人生賛歌の作品だ。
迷う人や自信をなくした人へのエールが感じられる。
そしてラストに残す余韻が格別で、いつまでも酔い痴れていたいと思ってしまう。
映画『聖なる犯罪者』神父なりすまし事件の実話が胸を熱くする
2019年製作/ポーランド・フランス合作
監督:ヤン・コマサ
出演:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル
あらすじ
少年院に服役中のダニエルは、前科者は聖職に就けないと知りながらも神父になることを夢見ていた。仮釈放され田舎の製材所で働き始めた彼は、ふと立ち寄った教会で新任の司祭と勘違いされ、司祭の代わりを命じられる。村人たちは司祭らしからぬダニエルに戸惑うが、徐々に彼を信頼するようになっていく。数年前にこの土地で起きた凄惨な事故を知ったダニエルは、村人たちの心の傷を癒やそうと模索する。しかしダニエルの過去を知る男の出現により、事態は思わぬ方向へと転がっていく。
引用元:映画com.
ポーランドの神父なりすまし事件の実話
驚いた。
ポーランドでは、本作のダニエルのように、神父になりすます事件が毎年起きているらしい。
神父になるには神学校に通い、厳しい修練を積まなければならない。まさに過酷な道だ。
しかし身分証の提示を求められることがほとんど無いため、「神父」と名乗ってしまえば受け入れられてしまうという。
映画のモデルとなった19歳の青年は、ダニエルのように1つの村ではなく、実際は複数の場所で神父を演じ巡ったらしい。
ある意味大したものだと感心してしまう。
若くとも、威厳やカリスマ性が相当あったのだろう。
さらに驚くべきことは、信者たちからの強い要望で逮捕後も無罪放免となったことだ。
犯人がダニエルと同様、いかに慕われていたのか推測できる。
監督のヤン・コマサは、そんな突飛な実話に目を付け映画にした。ストーリーは、なりすましの他事件も盛り込み、娯楽性とスリルに富んだ仕上がりになっている。
生まれ変わるということは
本作を観て、ヴィクトル・ユーゴー原作の『レ・ミゼラブル』を思い出していた。
長い監獄生活から出所した犯罪者の男ジャン・バルジャンが、司教の救いによって心改め、恵まれない民のために戦う物語だ。ジャン・バルジャンは犯罪者の烙印を押された過去を切り捨て、別人として生きようとしていたが、素性を知る者が道をふさごうとする。
生まれ変わろうとしているジャン・バルジャンと、ダニエルが重なって見えた。
ダニエルは第二級殺人罪(計画的ではない殺人)で服役していた過去を持つ。
仮出所後すぐにクラブで踊り狂い、薬物を楽しんでいる様子が映し出される。
しかし行き着いた村で、咄嗟に名乗った「神父」を演じ始めてから、顔つきが変わっていくのが分かった。
新しい理想の自分を演じると、村人たちは素直に受け入れ、尊敬のまなざしさえ送った。
村人たちの期待とダニエルの目指すべき道が重なり、ダニエルの邪心が確かに消えた。
人は、出会いによって生まれ変わったかのような自分を知ることがある。
それはもしかしたら、初めて本当に愛する恋人や守りたい人と出会ったときかも知れない。
あるいは、初めて親になったときかも知れない。
しかし本来の自分とは、実は不確かでしかないのかも知れない。
救えなかった信仰心
※ここからネタばれ含みます。
ダニエルは信仰によって、人生の灯を見出だしていた。
少年院までの道筋は分からない。
しかし神父を目指そうとするも、「前科者は聖職者になれない」という事実にダニエルは打ちのめされてしまう。
何とも嘆かわしい。
一度罪を犯した者でも悔い改めれば、道は開かれるという教えと矛盾してはいないだろうか?
ダニエルは分断した村を救済した。
捕まる直前、村から逃げ出すこともできたが、向かった先は教会だった。
最後まで神父として、葬儀のミサの務めを果たそうとしたのだ。
信者の哀しみに寄り添ったダニエルは、村人たちの傷付いた心を癒し、憎しみを断ち切らせた。彼が本物の神父でないと知っても、恨む者はいなかっただろう。
残された村人たちが彼の思いを引き継いでいくのが印象的だ。
そして再び少年院に送り返されたダニエル。
彼の中で信仰が怒りに変わっていったように見える。
自分を救ってくれたはずの信仰とは何だったのか。
ダニエルの声なき声が木霊するようなラストで、やり切れなさに溢れた。
心に刺さる映画の名言10選≪洋画編≫
映画の中で生まれた名言が、思わぬ勇気や、人生の道しるべとなるときがあります。
不意打ちの言葉はぐっと心を突き刺し、いつまでも胸に響き渡っていきます。
今回は映画好きの私が、特に心に刺さった名言を10選ご紹介します。
博士と彼女のセオリー
- 人間の挑戦に限界はない。 どんなにひどい人生に思えても、生きていれば希望がある
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の難病を患う天才科学者スティーブン・ホーキング博士が、授賞式会場でスピーチした言葉です。
その想いに辿り着くまで、どれほどの葛藤があったか図り知れません。
ホーキング博士は余命2年と宣告されてから、少しずつ身体機能が失われ絶望し続けました。しかし愛するジェーンの支えで、家庭を持つことや、宇宙理論の研究を続けることをあきらめませんでした。
難病によって閉ざされた時間や未来を悲観視せず、ポジティブに困難を乗り越えることの大切さを伝えています。
ホーキング博士は、”ユーモアがなければ人生は悲劇”という人生論を掲げています。
きみに読む物語
- 誰にも負けなかったことがある。命がけで、ある人を愛した。私にはそれで十分だ
認知症の妻に語りかけた夫デュークの言葉です。
初めての恋は、甘酸っぱい思い出に満ちているものです。
しかし物語に登場する若い2人はあまりにも壮絶な出来事が多く、切なすぎるものでした。誰かを生涯愛し続けることは、犠牲を伴うことでもありました。もっと良い人生があったかも知れません。
しかし終わりを告げるその瞬間まで、愛にひたむきに生きた人生こそ誇りとしたデュークの不滅の想いが伝わってきます。
イル・ポスティーノ
-
あなたが帰った時、素敵なものはみんな持って帰ったと思った。
でも本当はいろんなものを残してくれたんだ
友人ネルーダが祖国に帰り、落ち込んでいたマリオですが、自分の住む島の美しさに気づいたときの言葉です。
それまで島はありきたりに人々の生活を切り取る、退屈な場所と思っていました。
しかしネルーダとの語らいで、身近なものこそ、奇跡の美しさがあることに気付いたのです。マリオは島に息づく音の数々を拾い上げ、ネルーダに届けました。波や風、教会の鐘、お腹に宿る子供の心拍音。そして星降る夜の音…。
マリオの起こした行動に、深い感動が広がっていきます。
レビューも読んで下さい♪
グリーンブック
- 勇気が人の心を変える
人種差別の激しい1960年代。黒人ジャズピアニスト・シャーリーが、あえてアメリカ南部へ演奏ツアーに向かう理由を、バンド仲間が代弁した言葉です。
ジャズ界で名を馳せても、一歩会場を出れば惨めな扱いを受けます。時に差別主義者から絡まれ、命の危険にさらされることもありました。
その地を拒絶することもできたシャーリーですが、黒人が大衆の前でピアノ演奏をし、白人たちに才能を披露することで根強い差別意識を変えることを信じていました。
踏み出した勇気にどれほどの価値があるのか、伝えてくれる言葉です。
桜桃の味
- 夜明けの太陽、夕陽、星空、満月をもう一度見たくないのか?目を閉じてしまうのか?全てを拒み、全てを諦めてしまうのか?桜桃の味を忘れてしまうのか?
自殺をしようとしている男バディに、老人がかけた言葉です。
それまで出会う人々に「自殺はよくない」と決まり文句のような言葉で諭されてきたバディですが、最後に出会った老人だけは違いました。
人生がつらくても、小さな喜びは日常にあふれている。目に映るものや感じる心を失わなければ、人生に屈することはない、ということを教えてくれています。老人もまた自殺を決意した過去があるからこそ、バディに寄り添うことができました。
人生絶望する者こそ、この言葉の重みを知ることができます。
イラン映画の監督アッバス・キアロスタミの温かなメッセージが沁みます。
ボヘミアンラプソディー
- 病に侵された悲劇の主人公でいるつもりはない。自分が何者かは自分が決める
自分がエイズであることをメンバーに打ち明けたときのフレディの言葉です。
性的マイノリティであることを苦悩し続けたフレディは、大切な人たちを拒絶し、快楽に身を任せる日々を送っていました。どんなに栄光を浴びても孤独と挫折を感じていましたが、自分を理解しようとしてくれる人や、一緒に頂点を目指した仲間の存在に気付きます。
QUEEN復活を決意し、自分の定められた運命を精一杯生きようとする覚悟が見える言葉でした。
この言葉通りフレディは彼らしいスタイルを貫き、伝説へと昇華したのを見逃せません。
ニュー・シネマ・パラダイス
- 自分のすることを愛せ
恩師アルフレードが、夢を目指して旅立つトトに贈った言葉です。
夢への道は厳しく、困難なものです。時に限界を知り、夢を追うことに疑問を持ってしまうこともあるでしょう。しかし自分のすることを愛していれば、決して迷うことはないということを熱く伝えてくれています。
とてもシンプルですが、アルフレードの言葉は、夢を目指す多くの人の勇気となって背中を押してくれるのを感じます。
レビューも読んで下さい♪
レナードの朝
-
みんな生きることの素晴らしさを忘れている。持ってるものの尊さを教えてあげなきゃ。
人生は喜びだ、尊い贈り物だ。人生は自由で素晴らしい!
嗜眠性脳炎という30年間眠り続ける病気から目覚め、人生を取り戻そうとした患者レナードの言葉です。
外に出たレナードは街が煌めいて見え、全てのものに感動を表しました。
生きている素晴らしさを肌で感じ、一瞬一瞬が奇跡の賜物であることを人々に伝えようとしたのです。やがて訪れる悲劇を思うと、レナードの絶望と希望に打ちひしがれます。
レナードの残した言葉は、当たり前に過ごしている私たちの心に気づきを起こしてくれます。
インターステラー
- 親になるというのは、子どもたちの未来の幽霊になることなんだ
宇宙に向かう父親クーパーが、泣きじゃくる10歳の娘にかけた別れの言葉です。
もう二度と会えないかも知れないことを、親子は覚悟していました。
父親は、そばに居られなくても娘を想う気持ちはどこにいても変わらないことを伝えています。また娘がその気持ちを感じ取ることを信じているのが分かります。
一見宗教的な教えにも聞こえますが、その後に展開される宇宙の壮大なストーリーを観ると、人の気持ちが時空や空間をも超越することを暗示しているようでもあります。
宇宙と死のつながりを感じ、深く胸に響いてきます。
ガタカ
- 僕に何ができて何ができないか、決めつけるな!
夢をあきらめるよう促す弟に、兄ヴィンセントが反論した言葉です。
近未来。遺伝子操作によって優秀な人間がはびこる社会で、自然妊娠で生まれたヴィンセントは差別を受けて育ちました。優秀な遺伝子を持たない人間は病気のリスクや、身体能力が劣っているため、進学や就職も冷遇されていました。
しかし宇宙飛行士という大きな夢をあきらめきれなかったヴィンセントは、エリートに混ざり、身分を偽りながら実現させようとします。
自分の限界に挑戦しようとする、揺るぎない決意が伝わってきました。
映画『ジャングル・クルーズ』怒涛のアトラクションが見もの
アマゾンのジャングルの奥深くに「“奇跡の花”を手にした者は永遠の命を手にする」という不老不死の伝説があった。行動力と研究心を兼ね備えた植物博士のリリーは、この秘密の花を求めて危険に満ちたアマゾンへ旅立つ。リリーが旅の相棒に選んだのは、現地を知り尽くしたクルーズツアーの船長フランク。「伝説に近づく者は呪われる」と言われる、アマゾン奥地の「クリスタルの涙」を目指してジャングルを進むリリーたち。そこで彼らは恐るべき真実を知り、奇跡の花をめぐる争奪戦に巻き込まれる。
引用元:映画com
アトラクションを自虐的に再現!?
映画の舞台となったのは南米のアマゾン川。
主人公のフランク(ドウェイン・ジョンソン)は古びた自前の船で観光客を案内するのが仕事。
オヤジギャグ連発で客は興ざめするも意に介さず、自然の猛威を熱く語りながら滝の裏側や野生動植物、原住民との一触即発を過剰に演出して船の観光を盛り上げていく。
フランクの度を超えた演技と、冷めた観光客の縮図に思わずニンマリしてしまう。
ディズニーランドのアトラクション、ジャングル・クルーズとよく似た雰囲気だ。
錆びた船。ぎこちない仕掛け。船長のオーバー演技。
どこか安っぽくて古臭い。
それがまた、妙な心地よさを感じたりする。
そう、本作は映画館でもアトラクションの空気をそのまま、味わせてくれているのだ。
自虐的なものさえ感じてしまう映画冒頭に、私は完全に引き込まれた。
そしてこれから始まる真の冒険への高揚感に包まれ、久しぶり胸が高鳴った。
滝の裏側のシチュエーションは、アトラクション感満載!
不気味すぎる悪役たち
今回も個性的な悪役が揃っている。
悪役がいてこそ主人公たちの活躍が光るもの。
特にディズニー映画では善悪がはっきりと分かれているため、欠かせない存在だ。(最近は過剰演出に走りがちな気もするが…)
本作も例に及ばず、悪役たちが際立っていた。
その風貌はグロテスク感半端なく、かなり不気味だ。
何せ、400年前に呪いにかけられた人間が生き返るのだから。
彼らの全身は蛇や植物、虫の大群に覆われて悲劇的なほどおぞましい姿をしている。外見だけではなく、心は憎悪と復讐心に取り憑かれ、主人公たちを容赦なく襲い掛かる。
まさに悪夢的な光景で、ディズニー映画言えども、小さな子供には要注意かも知れない。
さらにもう1人、ドイツ帝国王子のヨアヒム。
彼は世界征服を狙って「不老不死の花」を手に入れようと画策している。
ヨアヒムの仕掛ける脅しや罠がまた恐ろしい。ふつふつと湧き上がる怒りも狂気じみていて、ディズニー映画の本気度が伝わってきた。
冒険者の隠された秘密
ディズニー映画の実写版『美女と野獣』では、LGBTのキャラを初めて登場させたことで話題になった。
そのシーンは瞬間的ではあるものの、わりとその手の作品を観てきた者にとったら「分かる」見せ方だった。
賛否両論もあり、ストーリーとして必要だったのかは分からないが、ごく自然な描写にLGBTをタブー視しない製作サイドの姿勢を感じた。
実は本作で弟として登場するマクレガー(ジャック・ホワイトホール)も、ゲイだ。
ここでもはっきりとした告白はない。
「愛する人は他だった」という遠回しな言葉で、濁らしている。
ジャングルの大冒険にオシャレ道具を積み込むキャラクターとして笑いをとるが、「姉だけが味方だった」という物悲しさも垣間見せ、マクレガーの複雑な立ち位置が作品に奥行きを与えている。
大胆不敵な姉と、臆病者の弟。
そこに絡む頼もしくも謎めいた船長フランク。
それぞれの抱える背景や観念性を知ると、終盤に繰り広げられる展開に感動すら覚える。
超スペクタルな冒険活劇は、大人も子供も楽しめる驚きと興奮のシアタータイムになるはず。
真実が明かされたときの衝撃度がすごかったです!
子供と観たい映画10選≪夏休み企画≫(洋画編)
ステイホームが続き、長い夏休み、時間をもてあましてる子供たちも多いのではないでしょうか。
今回は≪夏休み企画≫と題し、映画好きな私が「親子で楽しめる洋画10選」を紹介したいと思います。
懐かしい80年代の王道作品も含め、洋画の実写デビューに打ってつけな映画を揃えてみました。
キッズアニメを観尽くした子供たちに、ぜひ新たな世界を広げてあげてみてください。
親子で楽しいひとときが過ごせますように。
親子で観たいコメディ映画
ナイト・ミュージアム
「博物館の展示品が夜中に動き出す」という、子供ならではの空想を実現させた痛快コメディは楽しさいっぱい!
骨格恐竜や古代エジプトの王子、モアイ像やはく製にされた動など、ありとあらゆるものが好き放題動くので、博物館内は大荒れ。警備員の主人公が、展示品たちを制御できずに悪戦苦闘する姿が笑えます。博物館の秘密が明らかになると、スリリングな展開に。
本作を観て、博物館の展示品に愛着や興味を持つきっかけになるはず。
2006年製作/108分/アメリカ
実在するアメリカの自然史博物館が舞台になったんだって。広くてびっくりしたよ。
マスク
冴えなかった主人公が緑色のマスクを被ると、一転して超人的な身体能力を持ち、底抜けに明るい魔人に大変身!
心臓や目玉が飛び出たり、宙を飛びまわったかと思えば華麗なダンスを披露し、意中の女性をイチコロに。
ハイスピードで動き回るマスク男をSFXの技術で表現し、視覚的にも大いに楽しめます。
ジム・キャリーの声色や顔変芸も見どころ。心を元気にしてくれるファンタジックなコメディです。
1994年製作/101分/アメリカ
マスクマンが風船で動物を作ったり、銃を作ったりするシーンが面白かった!
当初はホラー映画として製作される予定だったんですって!マスクの出現にどこか不気味さが漂っていました。
ホーム・アローン
大家族で中で、いつも相手にされない末っ子のケビン。クリスマスの日に家族旅行に置いて行かれるなんて、まさにアンビリバボー!
しかし泣きじゃくってる暇はなし!空き巣を狙った泥棒たちがケビンの家に迫ってきます。
家を守るため、次々トラップを仕掛けるいたずら好きなケビンと、ちょっと間抜けな泥棒たちとの掛け合いに大爆笑!
終盤は家族の大切さをメッセージに添え、温かさに包まれます。
1990年製作/103分/アメリカ
隣の家に住む無口な老人が怖かったけど、実はいい人で、ケビンと一緒に泥棒を撃退するところがホッとしたよ。
ホーム・アローン2は鳩おばさんとの交流が感動的でした。ぜひ1年後のクリスマス騒動もセットで観てみてください。
親子で観たいドラマ映画
ワンダー 君は太陽
10歳の主人公オギーは生まれつき顔が変形し、家で過ごす日々を送っていましたが、両親が学校に通わせることを決断。しかし人と違うオギーは好奇の目で見られ、イジメを受けて登校拒否をしてしまいます。
「自分らしく生きるとは?」という率直なテーマを投げかけ、1人1人の個性について考えさせていきます。
文部科学省特別選定作品で、差別のない心を育てる大切さも教えてくれます。
2017年製作/113分/アメリカ
母親がオギーを学校に向かわせるシーンが泣けました。
親子で観たいアドベンチャー映画
ジャックと天空の巨人
児童書「ジャックと豆の木」をベースにしたバトルアドベンチャー。
はたしてこれは物語の続きなのか、真の物語なのか、所々原作とミックスして期待を裏切りません。
人間対巨人の壮絶な戦いも迫力満点です。実写で見る巨人は、生々しくグロテスクでいかにも恐れる存在。人間を食べようとしたり仲間殺しをする性格はどう猛で残忍ですが、抜け感も半端ありません。そのため緊迫した場面でも笑いがこみ上がってきます。
おとぎ話の中で見る風景を見事映像化し、子供の想像力を養ってくれるでしょう。
2013年製作/114分/アメリカ
騎士団長役の人(ユアン・マクレガー)がカッコよくて好きになったよ!
センター・オブ・ジ・アース
「五感でライドする」の映画キャッチフレーズがふさわしく、予測不能の冒険アトラクションを大いに楽しませてくれます。
地底の世界に足を踏み入れると、そこは時を超えた神秘的な風景が広がっていました。しかし見たことのない生物や、太古の生物が存在し、危険と隣り合わせ!
次々と主人公たちにアクシデントが襲い、決死のサバイバルが目まぐるしく展開されていきます。
大人も子供も肩を張らずに、ワクワクと驚愕の嵐を体感しましょう。
2008年製作/92分/アメリカ
巨大な食虫植物がちょっと怖かったよ!
グーニーズ
宝探しや悪党との戦いは、子供の冒険心を大いに掻き立てられます。
レストランの地下から洞窟へ、そして海賊船のある海へと舞台を変えていく壮大感に初めて映画を観る子供たちは、たちまち引き込まれていくでしょう。
冒険をしながら友情や恋、家族の問題について向き合い、少し大人になっていくグーニーズたちの成長も見逃せません。
ストーリーが分かりやすく展開され、誰もがハッピーになれる傑作です。
1985年製作/114分/アメリカ
スピルバーグ監督が、子供たちのために作り上げた世界に思いっきり浸りたいですね。
親子で観たいSF映画
バック・トゥ・ザ・フューチャー
言わずもがな、みんなが愛するタイムマシンの傑作アドベンチャー。子供のころに初めて観たときの感動と興奮は、今の子供たちにも届くはずです。
過去の人たちと出会ってしまったことで、未来を変えそうな危機を必死で乗り越えようとする主人公マーティは、やっぱり我らのヒーロー!混乱と困難の中で見つけ出すアイデアは、スリルや笑い、驚きに溢れています。
未来の伏線を過去で回収していくのも爽快!どの世代にも映画の楽しさを伝えてくれます。
1985年製作/116分/アメリカ
チャッピー
人工知能を搭載されたロボットのチャッピー。チャッピーが少しずつ人間世界を知り、新しいことを覚えていく健気さは、愛おしさを感じていきます。
しかしギャングに誘拐されたことで悪の道へと調教されてしまいます。支配する人間によって性格が変わってしまうロボットの危うさに、心が痛むかも知れません。
そんなロボットと人間の絆を、新たな角度から見つめさせてくれます。
ラストに待つ驚くべき奇跡を、ぜひ親子で味わってください。
2015年製作/120分/アメリカ
E.T.
SF映画の名作なので、子供のうちに観せておきたい作品。
地球に取り残されたE.T.を、宇宙に帰そうと奮闘する少年たちの物語です。
E.T.が初めて姿を見せたシーンはけっこう今も衝撃的。ぎこちない動きで顔を出したときは最初こそ恐怖心を持つかもしれません。しかし観ているうちにやんちゃで無防備なE.T.が可愛く見えてくるから不思議です。
子供たちが秘密を共有したときのスリルと興奮に、テンションが高まります。
自転車が舞い上がる名シーンは、いつまでもほろ苦い感動を心に残していくでしょう。
1982年製作/115分/アメリカ
まとめ
今回は大人にとっては懐かしい80年代の映画もピックアップしました。
映画のグラフィック技術は進化し続けていますが、目が肥えないうちに古い映画の世界を覗いてほしいという願いも込めました。
映画から学ぶことはたくさんあります。映画は本と同じように人生を豊かにしてくれるものだと信じています。
ぜひ感性豊かな子供のうちに、いろいろな時代のいろいろな分野の映画を観させてあげてください。
映画『ホテル・ムンバイ』最高級ホテルで起きたインドのテロ事件の実話
あらすじ
2008年11月、インドを代表する五つ星ホテルが500人以上の宿泊客と従業員を人質にテロリストによって占拠された。宿泊客を逃がすために、プロとしての誇りをかけてホテルに残ったホテルマンたち。部屋に取り残された赤ちゃんを救出するため、決死の覚悟で銃弾の中へと向かう父と母。テロリストたちに支配される極限の状況下で、特殊部隊の到着まで数日という過酷な現実を前に、人々の誇りと愛に満ちあふれた脱出劇が描かれる。
引用元:映画com.
最高級ホテルの惨劇
襲撃事件が起きたタージマハル・ホテルは、これまでアメリカ大統領やイギリス皇室など、多くの著名人が利用してきたインドが誇る最高級ホテルだ。
神殿風な外観や、色鮮やかで豪華絢爛な内装の美しさは目を見張るものがある。流麗な装飾は洗練されて近代的。そして圧倒されるほど壮大な規模で、見ているだけでゴージャス感に酔い痴れてしまう。
映画では大富豪をもてなす様子を映していたが、一般旅行客やビジネス客も利用しているらしい。
安くても1泊2万くらいするが、決して手の届かないクラスでないところがまた魅了される。
そんな楽園のようなホテルで、テロ事件は起きてしまった。
優雅な場所が一転、血の海となる。
ロビーや廊下、階段、客室から銃撃音と悲鳴が飛び交い、惨状化してしまう。
誰かれ構わず銃撃する犯人たちの冷酷さに戦慄が走り、言葉を失う。
本来であれば、すぐに警察や治安部隊が駆けつけるはずだが、事件となったムンバイには数名の警察しかいなかった。
それがさらに惨劇を生むことになる。
結局、1300キロ離れた場所から治安部隊が到着するのを58時間も耐え忍ばなければならなかったのだ…。
インド政府はテロ対策に本気で取り組んでいなかったみたい。この事件前にも何度もインド国内はテロリストに襲撃され、警告されていたようです。
使命感を持って立ち向かう人々
映画の見どころは、極限下においても使命感をもって起こす人々の行動だ。
自分ではない誰かのために立ち向かう姿は勇ましく、心揺さぶられる。
実は犠牲になったのは、ほとんどがホテルマンだったという。
映画では給仕係アルジュンや料理長が、パニックになる宿泊客を安全な場所へと誘導していく勇姿が描かれている。
ホテルマンたちの「お客様は神様」の基本理念が、日本のおもてなし文化と重なる。
正直、インドでもこんな高い理念を掲げて働く人がいたなんて、驚いた。
最高級ホテルは、そこにいるホテルマンたちも最高のホスピタリティと誇りを持って仕事をしていたのかと感心してしまった。
しかしホテルマン以外にも、使命感を持って動き出す人の姿がある。
宿泊客のデイビットは、自分の赤ちゃんとベビーシッターのいる部屋に戻ることを決意する。
一方のベビーシッターは、泣き続ける赤ちゃんを抱えてクローゼットや掃除具入れに身を隠し、耐え続ける。このベビーシッターの窮地には、観ているこちらも息を殺すほど凄まじい緊迫感を感じた。
そして数名しかいない地元警察も、劣勢と知りつつテロリストと戦おうと踏み出していく。
それぞれが捨て身ながらも、誰かを守ろうとした勇気に胸が熱くなりました。
狂信したテロリストたちの素顔
※ここからネタばれ含みます。
テロを起こしたのは、イスラム過激派の少年たちだった。
この映画では、終盤にかけてテロを仕掛けた少年たちの迷いや恐れも垣間見せていくので、複雑な思いに駆られる。
同じ無差別乱射事件を描いた映画『ウトヤ島、7月22日』(2018年ノルウェー)の正体不明な犯人とは異なり、犯人側の声に焦点を向けている。
テロリストの少年たちは「異教徒に奪われたものを取り返す」という復讐心で、凶悪な犯罪を起こした。
恐らく、貧しい環境の中、社会的な不条理を強いられ続けてきたのだろう。彼らの苦しみに耳を傾けたのは、宗教の指導者と名乗る者だけだったのかも知れない。
社会から切り捨てられた少年たちが、誤った信教に導かれていく悲しさを節々で物語る。
しかしテロリストたちが犠牲にしたのは、実はテロリストたちと大差ない不遇な者がいたことを映画は知らしめている。
その1人が、給仕係アルジュンだ。
アルジュンの帰る家は、貧しい集合住宅の一角にある。
華やかなタージマルホテルと対比するように、スラム街で暮らす人々の風景が映し出され、インドの貧富の格差を浮き彫りにする。
そこへ狂信者となってしまったテロリストたちの嘆きが、聞こえてくるような気がした。
今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。
映画『ヒトラーの忘れもの』戦後の悲劇を描いた実話
あらすじ
第2次世界大戦後、デンマークの海岸沿いに残された無数の地雷を撤去するため、元ナチス・ドイツの少年兵たちが連れて来られる。彼らを指揮するデンマーク人軍曹はナチスに激しい憎しみを抱きながらも、無垢な少年たちが次々と命を落とすのを見て良心の呵責にさいなまれるようになっていく。
引用元:映画com.
デンマークで封印された実話
実は自国民でさえ知られざる歴史で、本作をきっかけに初めて紐解かれたという。
今では「世界一幸せな国」とも言われるデンマーク国にとって、もしかしたら触れられたくない黒歴史なのかもしれないと思った。
第二次世界大戦のさ中。
ナチスが米英軍の侵攻を防ぐために、デンマークの海岸に地雷を設置。その数は数十万個にものぼり、終戦後にデンマーク政府は撤去作業を命じたという。
駆り出されたのは捕虜となっていたドイツ兵で、大半は若い者たちだった。
映画では14人の少年兵が集められ、過酷な強制労働の実態を見せていく。
中には13歳の幼い少年兵もいた。
終戦後に自国の犯した罪を償うのは当然のことなのか、静かに疑問を投げかけてくる。
邦題はポップだけど、内容は重厚で、改めて戦争の過ちを見つめさせています。
犠牲になった少年兵
少年兵たちがどのような経緯でそこに辿り着いたかは分からない。
ユダヤ人迫害に加担し、民間人をも犠牲にしてきた者もいるかも知れない。根深い差別主義と愛国心を植え付けられ、軍へ志願してきた者もいるだろう。
その背景は良くも悪くも想像できるが、不安と恐れで脅える少年兵たちに胸が痛む。
彼らが背負う運命は、あまりに酷すぎると思った。
まともな訓練もないまま、いきなり1人で本物の地雷とを向き合わなければならない。一瞬の過ちが命取りとなって自爆してしまう。その恐怖は、常に銃口を突き付けられているのと同じではないかと思う。
また食事や水も与えられず、家畜の餌で飢えをしのぐほど追い込まれてしまう。
寝床は粗末な小屋に襲込められ、脱走しないよう鍵がかけられる。
逆らうことのできない者たちに、野蛮を働く人々の姿。
勝者と敗者が入れ替っても、終わらない悲劇を物語り愕然とする。
ラスムスン軍曹の中にみる救い
※ここからネタばれ含みます。
地雷撤去の現場を指揮したのは、デンマーク軍のラスムスン軍曹。
彼の憎しみは深い。
敗戦で撤退するドイツ兵とすれ違えば、暴力と暴言を浴びせる。オープニングで観るそのヒステリックな姿は、異常さを感じなくもない。
彼からすれば少年兵だろうが憎むべきドイツ国民で、少年たちが地雷で犠牲になろうが、餓死しようが容赦しない怒りが伝わってくる。
しかし彼らの心の叫びを聞いたとき、ラスムスン軍曹に少しずつ変化が現われる。
これが本作の最大の見どころだ。
迷いながらも、ラスムスン軍曹は地雷で犠牲になった者に手当てを受けさせ、悲しむ少年兵を励ます。また大量のパンを入手し、休暇日も与える。
ラスムスン軍曹と少年兵の過ごす安息の時間が眩しく、それが一層その後に待ち受ける現実を絶望へと落とし込んでいく。
誰もがドイツ軍を悪とみなし、復讐心に燃えていた時代。
しかし目の前にいるのは弱き敵で、自分たちと同じように祖国や家族を想い、小さな希望を持って生きている。
赦すことは自分を欺き、同胞を裏切ることなのだろうか。真の敵とはいったい誰なのだろうか。
ラスムスン軍曹の最後に起こす行動が、一筋の救いを見たように思った。
監督はデンマーク出身のマーチン・サントフリート。自国の史実をしっかり見つめて問題提起した姿勢がスゴイと思いました。
今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。
映画『ニュー・シネマ・パラダイス』は今も映画館に光を灯す
あらすじ
映画監督として成功をおさめたサルバトーレのもとに、老いたアルフレードの死の知らせが届く。彼の脳裏に、「トト」と呼ばれた少年時代や多くの時間を過ごした「パラダイス座」、映写技師アルフレードとの友情がよみがえってくる。シチリアの小さな村の映画館を舞台に、映画に魅せられたサルバトーレの少年から中年に至るまでの人生を3人の役者が演じる。アカデミー外国語映画賞やカンヌ映画祭審査員特別グランプリなど、各国で賞賛を浴びた。
引用元:映画com.
映画は魔法そのもの
今も世代を超えて愛されている本作。
映画好きの人は「これだけは観た方がいい映画」の1つとして挙げる人も多いのではないかと思う。
1950年代。
イタリアの小さな村に誕生した映画館『パラダイス座』。
娯楽のなかった村人たちが、たちまち映画に魅了されていく様子が楽しく映り込む。
映画館を訪れた人々は見たことのない世界に興奮し、銀幕スターたちの人生を疑似体験していく。驚きや笑い、スリルや感動の渦に巻き込まれ、特別な時間を共有する。
映画館は、自分でない誰かになれる場所だ。
世代や人種、性別を超え、ドラマティックな人生を旅する。
時には怒りや悲劇を味わうが、ひそかに見ていた夢や愛を実現することもある。決して日常では知ることのできなかった感情に目覚め、観る者の心を豊かさに彩ってくれる。
そうやって映画は、人の心に哀しみや喜びを仕掛ける。
まさに魔法そのものだ。
フィルムを回す映画技師アルフレードを、
少年トトは魔術師のように見えたかもしれないわ
アルフレードの込められた想い
トトが目をキラキラ輝かせてスクリーンや映写機を眺める姿は、自分が初めて映画で感動したときの喜びを思い出す。
それは人によっては映画でなく、子供のころ夢中になった「昆虫」や「電車」あるいは「本」かも知れない。好きなものを見つけ、その世界に没頭した子供時代を、本作は優しく思い起こさせてくれる。
人は大人になるにつれ、人生の行き止まりが見えてくる。
トトも同じだった。
そんなときアルフレードの「自分のすることを愛せ」と言う言葉が胸に突き刺さってくる。
火事で視力を失ったアルフレードは、夢から切り離されてしまった。
恐らく、村の誰よりも映画を愛してきただろう。
もう彼は映画の仕事をすることも、映画を観ることもかなわない。そんな運命を受け入れながらも滲み出る怒りや悔しさを、トトに向けたようにも思う。
旅立ちの駅で「帰ってくるな」とアルフレードは言う。
別れの言葉は思いのほか厳しく突き放すもので、トトを苦しませただろう。本当は「道に迷ったら帰ってこい」と言ってくれた方が、ずっと楽だったと思う。
アルフレードとトトのそれぞれの抱える想いが、切なく交差する。
帰る道をなくしたトトは、その後、確固たる信念で目指す道を歩き夢を叶えた。
アルフレードとの約束が背中を押していたのは言うまでもない。
それでも名だたる有名監督になっても、トトは何故か幸せそうに見えなかった。
故郷に一度も帰ることもなく、
30年の月日が流れてしまうのよね・・・
見事なラストシーン
※ここからネタばれが含まれます。
ラストシーンは、映画史に残る名場面だ。
アルフレードが唯一トトに残した形見のフィルム。
それは切り取り繋ぎ合わされたフィルムだった。スクリーンに投影したのは、昔恋した女性エレナの映像と、映画の数々のキスシーンだった。
積み上がった想いにあふれ、トトは笑いながら涙を流す。
きっとトトは、もっとアルフレードと一緒にいたかったのだろう。これまで通り、夢を追いながら助言者として見守っていてほしかった。ときどき故郷の村で懐かしい人たちに囲まれ、悩みや喜びも分かち合いたかったのだと思う。
しかしそれはアルフレードも同じだったことを、トトは知る。
本当はいつでも自分に戻れる場所があったことに気付く。
2人だけの思い出。
眩しい時間が、よみがえってくる。
トトはようやく、愛した世界で生きる自分を誇れたように見えた。
見事なラストシーンは、観る者の心も解き放してくれた。
そこに盛り立てる、エンリオ・モリコーネの音楽もたまらない。
多くを語らない映像の中に哀愁を深め、憎いほど泣かせてくれる。
本作は1989年の単館映画館「シネスイッチ銀座」で初めて上映され、その後のミニシアターブームのきっかけとなった。
今も多くの劇場で何度も再上映され、訪れる人々への贈り物として映画館に光を灯し続けているように思う。
今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。