フランスの国民的大女優ファビエンヌが自伝本「真実」を出版し、それを祝うためという理由で、アメリカに暮らす脚本家の娘リュミールが、夫でテレビ俳優のハンクや娘のシャルロットを連れて母のもとを訪れる。早速、母の自伝を読んだリュミールだったが、そこにはありもしないエピソードが書かれており、憤慨した彼女は母を問いただすが、ファビエンヌは意に介さない。しかし、その自伝をきっかけに、母と娘の間に隠されていた愛憎渦巻く真実が次第に明らかになっていく。
引用元:映画com.
是枝監督の挑戦的な映画作り
『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督。
今度はパリを舞台にカトリーヌ・ドヌーブ、ジュリエット・ビノシュ、そしてイーサン・ホークを起用してフランス映画を撮りました。
カトリーヌ・ドヌーブ、さらにはジュリエット・ビノシュというフランスの大女優を共演させただけでも凄いことなのに、フランス人の、それも芸能一家の家族問題を見つめた脚本を是枝監督自身が書いたというから驚きです。
聞けば「現地ではこういうことはない」「こういう言い回しはない」などの指摘を受けて何度も修正が加えられたようです。
監督はフランス文化に精通しているわけでも、フランス語が流暢に話せるわけでもありません。
フランス人の製作スタッフが多く参加したとしても、馴染みのない国で完全オリジナルドラマを撮るということは、日本人としても映画人としても、かなり挑戦的な映画作りだったことが伺えます。
そしてカトリーヌ・ドヌーブの役柄にも注目したいところです。
引退間近のプライド高い大女優役を演じているのですが、
「日常なんてどうだっていい」
とアンニュイな表情で呟くその姿は、ドヌーブの実像のイメージと重なって見え、失礼ながら彼女のために書かれた脚本ではないかと疑ってしまいました。
本人は役と切り離していたようですが、観る側からしたら是枝監督の勇気に絶賛したくなる配役です。
本作はセザール賞外国映画賞を獲得しています。
やっぱり素敵なイーサン・ホーク
フランスの大女優の母と脚本家の娘、そこに娘婿として登場するハンク(イーサン・ホーク)の存在が絶品です。
ハンクはフランス語が話せないため、しばし会話から置き去りにされます。
売れない俳優であったり、1人だけアメリカ人であったりするので、立場的にも肩身が狭いのですが、そこに可笑しさと哀れさが織り交ざっています。
食卓では、ドヌーブ演じるファビエンヌに思いっきりディスられてしまうのですが、作中、最もユーモアに包まれたシーンでした。
こんな役柄を演じるイーサン・ホークに、ファンとしては思わずニヤリとしてしまいます。
『ビフォア・サンセット』でも『6才のボクが、大人になるまで。』でも、やたら女性陣に怒鳴られ絶句していた姿を思い出します。
ソフトな雰囲気が情けない役を似合わせてしまっているのかも知れません。
しかし本作では、これまでないほど子煩悩で理想的な父親役を演じているので、ファンはまたも惚れ直してしまうかも知れません。
今回イーサン・ホークの子供との触れ合いシーンは彼の自然体の姿で撮ったらしく、それもまた素顔を見たようで嬉しくなりました。
フランス映画に入り込む日本テイスト
フランス映画と言えば、作家性が強く押し出た芸術的作品が多いです。
難解で退屈な映画をイメージする人も多いのではないでしょうか。
映像は風景やファッション、人物たちが洗練されていて上質な雰囲気が漂います。
交わされる会話は深堀したくなるほど詩的で意味深です。
ゆったりとしたカメラの映し方や間合いは、日本映画と似たものを感じます。しかし日本映画は寄り添いどころを丁寧に見せていきますが、フランス映画は感性を試すようにストーリーが運んでいくので、しばし観客を置き去りにしがちです。
本作は、やはり日本的なものを感じました。
とても丁寧に丁寧に、登場人物の心の変化を追いかけています。
退屈さや、女同士の辛辣さはフランス的なものを感じましたが、とても分かりやすい「家族再生物語」になっていました。
そしてフランス映画の鑑賞後はオシャレな映画を観たなーという充足感を味わえますが、それは本作も同じでした。
フランス映画を日本風に味付けした雰囲気が心地良く、とても気分が舞い上がってきます。
是枝監督の新たな世界観を堪能したい1本です。