アカデミー国際長編映画賞第88回受賞作品。
第68回カンヌ国際映画祭ではグランプリを、第73回ゴールデングローブ賞では外国語映画賞を受賞。
2015年製作/107分/G/ハンガリー
あらすじ
1944年10月、アウシュビッツ=ビルケナウ収容所。ナチスにより、同胞であるユダヤ人の死体処理を行う特殊部隊ゾンダーコマンドに選抜されたハンガリー系ユダヤ人のサウル。ある日、ガス室で生き残った息子と思しき少年を発見したものの、少年はすぐにナチスによって処刑されてしまう。サウルは少年の遺体をなんとかして手厚く葬ろうとするが……。
引用:映画.com
センセーショナルな受賞作品
映画好きの私は、とりあえずアカデミー賞とカンヌ国際映画祭で評価された作品は観ておきたいというポリシーがある(未鑑賞の作品もあり)。
その中でも「アカデミー賞国際長編映画賞」(旧:アカデミー賞外国映画賞)は、わりと私好みな作品が多く、アカデミー賞作品より注目していたりする。
そして、2016年の受賞作品を鑑賞。
あらすじでイメージした通り、やはりセンセーショナルな内容だった。
時に映画は、心をえぐるような歴史問題を紐解き、人間の狂気を浮き彫りにすることがある。
特に人類最大の悲劇を描いたホロコーストは、人の絶望や残酷性を突き付けてくるため、心して観なければならない題材だ。
そして本作。
私なりに数多くのホロコースト作品を観てきたつもりだが、あまりの凄まじさに何度も息をのんでしまった。
人によっては、観たことを後悔するかもしれない。
何故なら、アウシュヴィッツ強制収容所の最も恐ろしい現場を描き出しているからだ。
それでも多くの映画賞に輝き、高い評価を得た。
観た人の心に強烈な想いを走らせのは、間違いない。
サウルの見る風景
主人公のサウルはゾンダーコマンドの1人だ。
ゾンダーコマンドとは、ナチス親衛隊によって強制収容所にいるユダヤ人を集めた労務部隊のことをいう。
部隊は、ガス室などで殺されたユダヤ人の死体処理を強制される。
自分も死体の山の一部となることを恐れながらも、ゾンダーコマンドに任命された者は、他のユダヤ人より少し長く生きることができる。
おおよそ3か月~1年。
ナチスの気まぐれな指令で期間が異なるが、その後、容赦なく抹殺される。
そんなゾンダーコマンドとして働くサウルに、カメラはピッタリ寄り付いて追っていく。
背景をクローズアップすることはない。サウルの表情や後ろ姿で、「何が起きているか」想像を掻き立たせるように見せていく。
そのぼんやり霞められた映像手法は、サウルの虚ろな瞳から見る風景のようにも見える。
映画が最後に描いたもの
※ここからネタバレ含みます。
「息子をきちんと埋葬したい」
ガス室で犠牲になったユダヤの少年を見たとき、サウルの心が動いた。
ナチスの残虐行為で、地獄絵図のような光景を毎日目の当たりにしてきたサウルは、すでに正気を失っていたのかも知れない。
あの手この手で収容所からの脱出を計ろうとするが、どれも無謀すぎて、まるで取り憑かれた人間のようにも見える。
実は少年が本当の息子なのか、分からない。
しかしそんなことはどうでも良かった。
埋葬することが使命であり、彼の見つけた小さな救いだったのだろう。
一片の迷いもなく突き進むサウル。
その姿は、死と恐怖に屈しない気高さに溢れたものを感じる。
重々しく陰惨として病みそうになる作品だが、最後のサウルの微笑みが目に焼き付いて離れない。