映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』コロナ禍の今こそ観ておきたい
2016年製作/100分/G/イギリス・フランス・ベルギー合作
あらすじ
イギリス北東部ニューカッスルで大工として働くダニエル・ブレイク。心臓に病を患ったダニエルは、医者から仕事を止められ、国からの援助を受けようとしたが、複雑な制度のため満足な援助を受けることができないでいた。シングルマザーのケイティと2人の子どもの家族を助けたことから、ケイティの家族と絆を深めていくダニエル。しかし、そんなダニエルとケイティたちは、厳しい現実によって追い詰められていく。
引用元:映画com.
コロナ禍の今と重なる社会の縮図
陰鬱な映画かも知れない。
結末も釈然としない思いに駆られる。
何せイギリスの巨匠ケン・ローチ監督作品だ。これまで社会的弱者に寄り添い、現実世界の厳しさを映画で訴え続けていた。
そして今回は、国の支援を必要としているのに受けられない人たちに焦点を当てた。
心臓病で働くことを止められた主人公ダニエルと、シングルマザーのケイティ。
それぞれ失業給付金の申請をするも、時間通りに来なかったことや、「まだ働ける」と審査されたことで申請を拒まれてしまう。
何度申請しても、役人たちはマニュアル通りに対応するだけ。
また高齢のダニエルに、「書類手続きはインターネットから」と突き返す。
自国(イギリス)の福祉制度の面倒なシステムや、非人道的な役人たちの態度が、貧困に苦しむ人々をさらに追い込んでいく…。
コロナ禍の今、思いを重ねる人も多いかも知れない。
社会活動を制限され、支援を必要とする人々。そんな彼らに、今の日本はしっかりとした補償を打ち出せず置き去りにしている。
国は違えど、弱者を切り捨てる社会の縮図が見えてきて、いたたまれなくなる。
フードバンクでの一幕
恥ずかしながら、フードバンクの実態をよく知らなかった。本作を機に、その活動について興味を持つようになった。
フードバンクとは生活困窮者に、食料品や日用品を支給するボランティア団体のことだ。
(日本でも2014年頃から正式に活動しているらしいが、認知度は低い。)
イギリスはコロナ禍の影響もあり、利用者が急激に増えているらしい。しかし誰もが利用できるわけではない。医師やソーシャルワーカーの認定後、登録カードが必要となる。
映画では、このフードバンクが提供する倉庫で、強烈な場面を描く。
シングルマザーのケイティが並べられた缶詰めを見て、思わずその場で開封し口にしてしまうのだ。
空腹からくる衝動で、完全に理性を失くしていた。
我に返って泣きじゃくるケイティを観て、気丈にふるまいながらも、自分の惨めさに押しつぶされていく姿が胸を締め付けた。
ケイティの心の叫びが聞こえてくるようでした。
映画が届けたメッセージ
この映画では、ダニエルの起こす行動にメッセージが込められている。
高齢なうえに持病を抱え、生活にも余裕のないダニエル。
それでもケイティを救おうと小さな親切を重ね、支え合うことの大切さを訴えている。
今、身近で起きている悲劇に気付こう。
助けを必要としている人たちに、手を差し伸べよう。
小さな働きかけで、誰かを救えるかも知れない。
ケン・ローチ監督が引退宣言を撤回してまで打ち立てた作品が、胸に響いてくる。
実は日本では、本作を提供する株式会社バップ、有限会社ロングライドが中心になって「ダニエル・ブレイク基金」を設立した。
映画の上映権を保有する30年間の間、収益(DVDやブルーレイ、テレビ放映、配信など)の一部を貧困に苦しむ人々に寄付することとなっている。
誰もが明日の身など分からない今こそ、観ておきたい映画だと強く思った。
劇場公開中は、限定的に観客から缶詰めの寄付を募っていたようです。