今回も大好きな映画の一つをご紹介します。
第90回アカデミー賞(2018年)では同年最多の全13部門にノミネートされ、作品、監督、美術、音楽の4部門を受賞しました。
あらすじ
1962年、冷戦下のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働く女性イライザは、研究所内に密かに運び込まれた不思議な生き物を目撃する。イライザはアマゾンで神のように崇拝されていたという“彼”にすっかり心を奪われ、こっそり会いに行くように。幼少期のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は不要で、2人は少しずつ心を通わせていく。そんな矢先、イライザは“彼”が実験の犠牲になることを知る。
引用元:映画com.
ギレルモ監督の描く世界を堪能する
監督を務めたのはメキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督。
私は2006年にギレルモ監督が世に送り出した『パンズ・ラビリンス』の世界観にたちまち心奪われていました。薄気味悪くも悲しいファンタジーの世界は、強いメッセージ性があり、どこか上質な余韻を残していたからです。
以来彼の作品に注目していましたが、ついに『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞を獲得!
万人受けするような作風ではないと思っていたので少し驚きました。
今回は「愛」をテーマにしていますが、恋する相手は「半魚人」ときたものですから…。
原案も脚本もギレルモ監督。
得意とする奇想天外なストーリーを存分に描き上げられたからか、監督は「本作が自分の作品で一番のお気に入り」と話していたのが頷けます。
そしてこだわった映像の2色の印象的なカラー。ティール(青緑)色と赤のコントラストが物や衣装、背景に散りばめられ、作品を幻想的に彩っています。
また卵やパイといった食べ物がキャラクターを描くアイテムとなり、ユニークな効果に溢れています。
特別な恋の煌めき
「彼はありのままの私を見てくれる。私を見ると嬉しそうにしてくれる。」
口のきけない主人公イライザが、親友に手話で打ち明けた場面です。
不気味な姿の半魚人に抱いたのは、好奇心や同情心ではなく恋だったことに思わず固唾を飲みました。
人は人でないものに、本気で恋することができるのだろうか。
生き物に心寄せるものがあっても、切なさやときめきを生むのは難しいのではないだろうか。
そんな恋の倫理観など不要だと言わんばかりに、ストーリーはリズミカルに進んでいきます。
ずっと孤独だったイライザ。
半魚人との言葉を持たない時間に内面の繋がりを感じ、心安らいでいるのが伝わります。
実験という名で虐待される半魚人を哀れみ、半魚人の中にある孤独と悲しさが自分を投影していたのかも知れません。そしてイライザが初めて守るべきもの存在に気付き、危険を冒そうとする行為が切実に映り込みます。
人間と半魚人。住む世界の違う2人。それは限られた時間であることを予感させ、一層、切なく煌(きら)めいて見えます。
味のあるキャラクターたち
舞台は冷戦下のアメリカです。しかも政府の極秘研究所なので、差別と暴力が蔓延っています。
半魚人への虐待や主人公への罵声、半魚人によって研究所の軍人の指が食いちぎられたりと、やたらショッキングな映像が挟み込まれます。
この研究所の極悪人ストリックランドは、マイノリティな者に対してえげつないほどの差別主義者です。
恐らくストリックランドは自分の作ったプライドや理想主義に縛られ、生きづらさを感じている人間なのかも知れません。人生の失敗を恐れている彼は、弱者を軽蔑し、高圧的な態度をとることで自己顕示欲を示しているように見えます。
彼が口のきけない清掃員のイライザに惹かれたのは、自分が欲望のままに支配できる対象とみなしたからでしょう。
このサディスティックなストリックランドの存在が、ダーク要素を強めています。
そんな中、イライザの隣人、画家のジャイルズの温かい人柄には和ませられます。
ジャイルズはゲイですが、イライザの大切な親友。
2人は朝食を共にするのが日課で、休みの日はバー通いやモノクロ映画を楽しみます。
このジャイルズはとてもセンチメンタルな人柄で、時代が絵ではなく写真を求めていることや、意中の彼に拒絶されたり、挙句は老けゆく自分の姿に落胆したりして人生を嘆いています。
ジャイルズは「君も僕も過去の遺物かも」と半魚人にボヤくのも印象的です。
この何度か見る彼のボヤキが、見ている人に共感や同情を呼び、愛すべきキャラクターとして作品に味を出しています。
また、この映画の語り部でもあるので、ジェイルズの存在がとても重要であることが分かります。
この映画を見終えた後に感じる不思議な多幸感。
それはダークファンタジーの中にある奇跡にときめくからかも知れません。
とても美しい映画です。
今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。