映画『愛を読むひと』愛する人に向き合えなかった人に贈る
2008年公開のアメリカ映画です。
第81回アカデミー賞において、主要5部門(作品・監督・脚色・主演女優・撮影)にノミネートされました。
(今回もネタバレありで書きます)
引用元:IMDb
あらすじ
1958年のドイツ、15歳のマイケルは、21歳年上のハンナとベッドを共にし、彼女に頼まれて本を朗読してあげるようになるが、ある日突然、彼女は姿を消す。時は流れ、戦時中のある罪を問われて投獄されたハンナのために、マイケルは物語を朗読したテープを刑務所に送り続けるが……。
引用元:映画com.
鑑賞後はしばらく気持ちが処理できない
本作でついにケイト・ウィンスレットはアカデミー賞を獲得しました。
ケイト・ウィンスレットと言えば、若い頃から賞レースに名を連ねてきた実力派女優ですが、一番有名なのはやはり『タイタニック』のローズ役ですね。
当時から脱ぎぷっりが潔かったですが、本作でも大胆なシーンに挑んでいます。
ケイトはどこか悲しみを背負って生きる強い女性役が似合っていますが、今回の『愛を読むひと』はまさに彼女の真骨頂を見ることができます。
この映画は年の差21歳(男15歳、女36歳!)という男女の恋を描いていますが、背景では戦争の大罪を生々しく見つめさせています。
実はあまりにもテーマが複雑なため、観終えた後は誰に心寄せるべきだったのか戸惑っていました。
戦争という実態を知らず、この映画が掲げた罪と罰について安易に話すことが許されないような気持ちになっていました。
ハンナが背負い込んだ秘密
引用元:映画com.
第二次世界大戦後のドイツで、一人孤独に生きるハンナという女性。
誰にも弱さを見せず秘密を抱え、年下のマイケルと恋をし、突然姿をくらました人。
彼女は戦争当時、アウシュビッツ収容所で看守の仕事を任されていた過去を持っていました。
収容所で起きた恐ろしい悲劇。
当事者として携わっていたハンナは戦犯者として裁かれますが、彼女は意外なほどその罪に淡泊であったことが伺えます。
「規則に従っただけ。あなたならどうしたの?」「裁判の前まで自分の罪を考えたことはなかった」と告白するハンナが冷徹に見えなくもありません。
それよりハンナにとって最も恥じるべきことは、自分が文盲であるということでした。
ハンナは原作ではロマ人(インド系の少数民族で文字が読めない)であり、身分を隠すためだということが分かりますが、映画ではそこまで説明されていません。
そのため、たとえ罪人になったとしても、気丈に生きることを美学にしたハンナの虚栄心が押し出されているように見えます。
良い人間である前に、自身を偽らなければ生きる道はなかったかと思うと、ただただ切なく熱いものが込み上がってきます。
寄り添えなかったマイケルの罪
引用元:映画com.
傍聴席でハンナの戦犯裁判を見守ったマイケル。
かつて猛烈に恋した女性が戦犯者であり、文盲であったことを知った彼の苦悩が伝わってきます。
ホロコーストという大罪を背負うハンナの人生に、マイケルは恐怖さえ感じていたかも知れません
刑を言い渡されたハンナを救う道も知っていましたが、マイケルは見て見ぬふりをしました。それは彼女の自尊心を守るためでもあり、彼女の惨めさへの拒絶だったように見えます。
かつての眩かった憧れの人を、軽蔑と憐れみから閉じ込めるかのように。
一見、マイケルが独房にいるハンナに朗読テープを送ったことに深い愛を感じますが、それはハンナに向き合えなかったことへの贖罪だと感じました。
2人は年の差だけではなく、生きている時代も、立場も、身分も大きくかけ離れていました。
大人になってもその違いを埋めることができず、マイケルは自分の弱さと葛藤していたのでしょう。
しかしハンナの死によって、初めてマイケルは青春時代の甘美な思い出を慈しみ、ハンナの悲しい生き方に寄り添うことができたように思います。
自分を守ることの罪、そこから生まれる罰。
胸を締め付けられる切なさを残しましたが、最後は報われたものを感じました。
ケイト・ウィンスレットの演技が、この映画を最上の物語に仕上げています。
今回もお付き合い下さり、ありがとうございました。